これまでも長年にわたって需要変動をなだらかにする取り組みは試されてきた。通勤の集中を避けた「オフピーク通勤」は好例だ。また東京メトロや私鉄各社が販売している「時差回数券」も、需要の集中する時間帯を外せば、普通料金よりも安い金額で乗車できる。時間帯をずらせばメリットが生じるのである。

 確かに生産性追求を突き詰めれば、従業員が同じ時間に出勤して、同じ時間に退勤する勤務形態がもっとも効率的だろう。4月の進学や企業の人事異動も、明治以来続いてきた伝統がある。そして人々の意識も、ちょうど時を同じく開花する桜と「門出の季節」を重ね合わせてイメージする人も多い。しかし、そういった過去には当たり前だったイベントも、これからは高いコストを支払って実現しなければならなくなる。

製造現場以外でも欠かせない「平準化」の取り組み

 製造業の現場では、急激な需要変動をなるべく引き起こさないように「平準化」の取り組みが行われる。需要変動によって生じる「でこぼこ」をできるだけ小さくする取り組みだ。これまで生産工程で行われてきた「平準化」の取り組みを、企業活動のあらゆる場面で取り組む必要性が高まっている。

 通勤に関して言えば、そもそも会社に全員が同じ時間に出勤する必要があるのかどうかについて考えなければならない。隣同士のデスクに座ってメールでコミュニケーションするのなら、わざわざ会社に行く必要はない。日本人が大好きな会議にしても、IT技術の発達によって、電話会議やテレビ会議が現在の企業に配備されたインフラで実現可能になっている。いきなり稼働日全てをテレワークするのも極端だろう。しかし通勤を不要にする勤務によって企業活動が維持できれば、通勤は「無駄」と判断される日が来るかもしれない。

 異動に伴う引っ越しも、なぜ4月に行わなければならないのかといった問題意識から出発して考える必要がありそうだ。企業組織の活力維持や個人のレベルアップを目的とした人事異動であれば、実施時期よりも異動に必要な業務の引き継ぎを十分に行うといった環境整備こそ業績への貢献度が高いだろう。引っ越しの手配もままならず、できたとしても高い料金を支払うのであれば、ピークを外した異動時期の設定は、費用支出の削減につながるはずだ。

 通勤や人事異動といった問題を扱うのは、企業の中では総務や人事といった比較的サプライチェーンに関する知識に疎い部門が対応を強いられる。しかし、通勤にしろ、人事異動にしろ、直接的に顧客やサプライヤーと調整を必要としない。社内調整だけで実現可能だ。従業員に「働き方改革」の推進を課すのであれば、ピークをずらして得られるメリットを見据えて、これまで疑う必要がなかったルールの変更にまで踏み込んで取り組むべきである。ピークを外せば従業員のみならず、企業業績にもメリットが生じるのだ。

すべての企業と部門に必要な供給能力不足問題

 日本における供給能力減少の問題は、大きな自然災害で発生する問題とは異なり、静かに徐々に進行する。企業におけるサプライチェーンを維持して、断絶を食い止めるためには、対応するには先手が肝心だ。この問題は、サプライヤーや顧客との間に発生するだけではなく、企業活動全体に影響を及ぼす問題である。今こそ、全社的に供給能力不足問題に取り組まなければならないのだ。