ホンハイでは大量の労働者が働くことで知られる。彼らが工場を建設し、そして労働者のための住宅整備をすることに対し、中国政府は最低でも15億ドル(約1700億円)の援助を行っている。最低でも、という表現の理由は、中国政府とホンハイからは明らかにされていないためだ。ただ、行政とともに、道路、そして輸出インフラなどを整備してきた。

 また行政は、電力コストを5%割引する特権を与え、工場建設にも融資を行っている。くわえて5年間の法人税の免除と、さらにその後の5年間は、率を減じた。さらに、労働者への訓練に補助を与えたり、募集についても援助を行ったりした。および社会保障費も引き下げた。

 あまりにも多くの特権だが、その他、最終商品についても、一定以上の輸出を行った際にボーナスを与えているし、輸送コストについても補助金を与えている。もともとアップルは中国生産の先進企業ではなかった。他メーカーの後塵を拝していたが、ホンハイの郭台銘(テリー・ゴウ)会長がトップ営業を行い、中国政府も異常な速さで工場を承認し、その姿はアップル幹部にして「感動的だった。彼らは集中してものごとに当たってくれた」(“I was impressed,” said Jeff Williams, Apple's chief operating officer, who was part of the early discussions about setting up a factory. “They were very focused.”)と言わしめるほどだった。

 中国へ生産が移っている。そういうとき、人々は労務費の安さを強調する。もちろんそれは大きな要因だ。しかし、同時に、安いだけで成功したのではない。特定地域が生産の拠点となるとき、そこには、時間をかけた育成と、行政と一丸となった活動があった(その他、中国の生産地から直接アップルの販売店に配送する保税地域などの取り組みも、前紹介記事に詳しい)。

トランプ大統領の発言

 ところで当連載でも紹介したとおり、トランプ大統領は選挙中に、アップルについて言及していた。具体的にはiPhoneを挙げた。「私は仕事を引き戻す。私はアップルに、コンピューターやiPhoneを中国ではなく米国で生産させる("I'm going to bring jobs back. I'm going to get Apple to start making their computers and their iPhones on our land, not in China")」とまで語った。

 一部の人にとってフラッシュバックしたのは、以前、同じテーマをオバマ元大統領が掲げていたことだ。2011年にオバマ大統領は、スティーブ・ジョブズCEO(当時)にiPhoneの米国への生産回帰をお願いしている。ジョブズCEOは、単に労働コストの優位性からではなく、柔軟性や効率性を考えると、とても米国には戻せないとオバマ元大統領に説明した。

 企業は国から米国回帰の強いプレッシャーを受けた。しかし、同時に企業は株主からもっと強い利益創出のプレッシャーを受けている。冷静な判断からは、米国回帰が答ではなかった。