関係図を参照すると一目瞭然、不当に給与が差し引かれたミャンマー人労働者Cとマレーシア日系現地法人A社に直接的な関係は存在しない。現地サプライヤーB社も人材派遣会社E社と契約してるので、Cの給与に直接的な関与がない。しかし、結果的にA社は数百もの抗議メールを受け、事業所に押し寄せた抗議団によって、事業運営に影響が出たのだ。

 マレーシア現地法人A社の立場で考えてみる。こういった事態に直面すると、どんな企業もまず当事者に事実関係を確認するだろう。その結果、自社と関係がない企業との雇用契約上の紛争であり「当事者にあらず」と判断する。

 実はこの判断基準が問題だ。自社には関係ないからとコメントを発表しない、あるいは「自社は関係ない」と発表する姿は、一般消費者を抱える「世間」にどのように映るだろうか。従業員の訴えを聞き入れない、あるいは無視を決めこんでいる「ごう慢な姿」に映らないだろうか。

 当事者の関係を冷静に分析し「自社は関係ない、潔白である」とする判断をインターネット上で期待しないほうがいいだろう。紹介した事例も、取引当事者以外の人権活動家の情報発信によって、問題意識を持った一般大衆が、あたかも当事者であるかのごとくA社に抗議する事態に陥っている。ビジネス上の関係が存在しなくとも、多くの消費者、世間が一緒に「当事者」化してしまうのだ。

ネットで個人が持つ「影響力」をみくびらない

 情報発信元が、たとえ個人のブログであっても、内容によっては企業経営に大きな影響を与える。発信された情報が全く言い掛かりだったとしても、初期対応を誤ると大きなダメージを受けかねない。紹介した事例では、後に人権活動家Dの事実誤認が明らかになり、B社との間では和解が成立した。結果的にA社の潔白も証明された。しかし、事の本質は、発生から和解までに要する期間に受ける悪影響だ。今回の事例でもB社から「自社は関係ない」と発表され、その後に当事者化の波がA社にも拡大した。B社はこう回答すべきだった。

「事実関係を調査中であり、追って調査結果は発表する。労働条件に関連した法令順守は、自社にとどまらず、サプライヤーに対しても順守を働き掛け、法令違反の事実が判明した場合は、取引停止を含め断固たる処置で対処する」

 そして、真偽と事実関係を確認する。直接的な取引関係がないことを根拠に責任がないと断言するのは、指摘を行った人権活動家Dからすれば、まさに「火に油を注いでくれた」事態である。ステレオタイプなおごる企業と弱い立場の従業員の構図ができあがり、逆に一気に当事者となる可能性が高まってゆくのだ。そして関係ないと発表した瞬間から、自社のブランドは傷付いてゆく。

 発生した事態に直接的な取引があるかどうか、加えて言えば、伝えられた内容が真実かどうかは関係ない。インターネットで伝ぱされた内容は、真偽など関係なく広がってゆく。「関係ない」とした横暴な企業の姿が広がってゆくのである。昨年発生した以下の事例にも顕著に表れている。