鴻海精密工業の郭台銘会長(写真=山田 哲也)

 衝撃的なニュースだった。産業革新機構ではなく、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを買収する見込みが濃厚になったからだ。それまでは、約3000億円の出資に加えて、銀行から最大3500億円規模の融資を設定する革新機構の案が、有力のはずだった。

 そして、革新機構が主導することによって、いわゆる「日の丸液晶」が保護される見込みだったし、ジャパンディスプレイ(JDI)との合弁をはかることも報じられていた。そこにきての鮮やかな逆転劇だった。

シャープは鴻海の一部となるのか

 ところで、この革新機構とシャープの不協和音は、少し前から聞こえていた。革新機構がなぜか電機業界を中心として出資してきた事実への批判もあった。さらに、JDIと統合しても、シャープのイグゾー(IGZO)ではなく独自技術の商品を前面に出そうとしていた。JDIは、LTPS(低温ポリシリコン)を活用しようとしており、「うちは基本的に(イグゾーではなく)LTPSを使った有機ELパネルをやっていく」と公言するほどだった(日経ビジネス2016年2月1日号より)。

 一方の鴻海はシャープとの協力関係やタッグを組むことのシナジー効果を強調した。さらに、支援額も7000億円規模と、革新機構のそれをはるかに上回っていた。おそらく、株主への説明責任等々を考えても、7000億円を蹴り、3000億円を選ぶのは難しくなったのだろう。さらに銀行(メインバンク)の意見も影響するといわれるが、銀行から見ても、鴻海の計画のほうが見栄えが良かった。

 さらに鴻海や同グループを率いる郭台銘会長はシャープにとって、完全な外様ではない。すでにシャープに対しては、液晶パネルの堺ディスプレイプロダクトに出資している。

鴻海とはどんな会社なのか

 鴻海は、どんな会社なのか、あらためて説明しよう。同社はいわゆるEMS企業だ。EMSは、Electronics Manufacturing Serviceの略であり、電子機器の受託生産を行う。鴻海は1974年に郭台銘氏が創業し、もともとは大手メーカーへマザーボードやコネクタ類を納品していた。だが、大手メーカー各社が90年代以降、自社製品生産を外部に委託する流れが加速してから、それを請け負う同社は劇的に成長していった。

 米ヒューレット・パッカードや米デル・コンピュータ(現デル)をはじめとして、米アップルコンピュータやソフトバンクなど、世界中のトップメーカーから受注している。ソフトバンクからはペッパーのアセンブリを担っているし、なによりもアップルのiPhoneやiPadは同社抜きには生産が追いつかないと言われたほどだ。

 現在はグループで80万人以上の従業員を抱える。80万人とは、大きすぎて想像しがたい。そして、ビジネスの規模もやはり大きい。同社のレポートを見ると、最新年度の売上高が4兆2131億台湾ドルで、純利益が1324億台湾ドルとなっている。1台湾ドル3.5円で計算すると、売上高は14兆7461億円、純利益は4637億円となる。日本でも、これほど大きな企業を探すのは難しいが、あえていうと、自動車メーカーのホンダは連結売上高が約13兆円なので、それよりも少し上となる。

 ちなみにシャープは、前期の売上高が2兆7862億円で、純損失は2223億円だった。