まず私が注目したのは「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」の帽子だ。当のトランプ氏が愛用し、有名になったあれである。「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」が入った帽子は強烈な印象を残す。あれが、まさか、米国製でないはずはない、と私は思った。他国製であれば、ある種の高度なブラックジョークだ。

 調べてみると、代表的なものだけでも、39ものブランドから、似たような帽子が発売されている。たとえば、amazon.com(amazon.co.jpではなく米国)で「MAKE AMERICA GREAT AGAIN HAT」などと検索してみよう。多くがヒットする。

 そこで次に、これら39ものブランドが、それぞれ、どこを生産地とするのかを調べてみた。すると、米国製のものは、なんと2つだけだった。見ていて笑ってしまったのだが、「Bayside Make America Great Again Donald Trump Embroidered Hat」と称して販売されている帽子などは、他の同種の帽子とは違い「100% All Made in The USA」を謳っている。逆にいえば、それが売り文句になるということは、ほとんどの帽子が米国製ではない。

 実際にどのパターンがもっとも多いかというと、本体は中国で生産し、刺繍のみを米国で行うものだ。中国から丸々輸入するものもあるが、これをどう思いながら米国消費者、トランプ支持者は購入したのだろうか。

「メイド・イン・アメリカ」ではない「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」

 アメリカの小売サイトを見ていると、Q&Aが充実している。しかも、消費者が書き込めるタイプのものが多い。すると、これらの生産国を事前に問い合わせるものが多い。「これは米国製なのか?」「もちろん中国製だ! BS(自己規制)!」などといった笑える会話が繰り広げられている。

 しかし、考えるにこの調達構造はおかしなものではない。中国生産の帽子を安価に調達するのは、経済合理性からすると理由がある。また、それぞれのカスタマイズ(刺繍)を消費国で行うのは、現地の消費動向を見ながら在庫を増やさない手段としては有効だ。ゆえに、私たちは、これまでの企業のグローバルな振る舞いが正しいほど、「メイド・イン・アメリカ」ではない「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」の帽子が笑えてしまう、という奇妙な状況にある。

 ところで、この帽子に関する調査があまりに興味深い結果だったので、次にトランプ氏自身のブランドについて調べてみた。

 まさか……とは思ったが、ドナルド・トランプ氏のブランドで販売されているもの(Tシャツ、ジャケット、コート、スーツ、ステッカー、マグカップ)の中で米国製は、ステッカーだけだった。なるほど、ステッカーであれば、労務費はほとんどかからないし、設備固定費だけだから米国製でも問題ない。むしろ海外からの輸入であれば納期が問題になるし、輸送費もかかってしまう。と妙に納得してしまった。

 マグカップはプリントを米国で行い、ベースは輸入している。これも「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」の帽子と同じとすれば納得がいく。

 その他、売れ筋のTシャツ3種類は、すべて米国製以外で輸入品だ(「Trump 45th President of the Unites States T Shirt」「President Donald Trump Inauguration Day January 2017 tee」「Donald Trump Nutrition Facts Make America President 2016」)。それにしても、高らかに米国復活を宣言した「Inauguration Day(就任式)」のTシャツも輸入品とは面白い。なお、コート、ジャケット、スーツも、米国製ではなかった。

 トランプ氏は前述のとおり、「自分自身のネクタイとシャツは中国製である」ものの、それについては、「喜ばしいと思ったことはない」と語ったようだが、いまだ米国製への転換は道半ばのようだ。

 「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」はいいけれど、「メイド・イン・アメリカ」があまりに「無理ゲー」な政策にならないことを祈る。