個人的に面白いと感じるのは、韓国サムスンの提案だ。同社は新しいポップアップのリアル店舗を公開している。もちろんサムスンだから、同社の強みを活かした店舗だ。店舗全体が「つながる」ことを特徴としている。店舗は、ディスプレイで覆われており、小売業者はここを週単位でレンタルできる。ディスプレイで新商品を“陳列”したり、検索できたりする。

 そのうえで、やってきたお客をカメラで分析することで、訪問数だけではなく、だいたいの年齢層や、性別などもデータ化する。動線を把握すれば、陳列の改善も可能だし、スタッフとのコミュニケーションも楽になる。

 なかには、いまさら? という展示をする企業も少なくない。たとえば、カフェで客がタブレットを使って自分で注文できるシステム。これなどは、居酒屋や回転寿司屋で、画面を見ながら注文している日本人にとっては古いとすらいえる。さらに、スーパーのセルフレジで、画像認識から商品価格を導く、といったシステムも新たなものではない。

 多くの展示のうち、大きく取り上げられるのは、顧客のパーソナリゼーションにAIを活用するといったものだ。CESにくらべると地味かもしれないものの、小売りという実務で活用できる技術を紹介しているのでいくぶん即物的だ。

大きく代わる小売業

 それにしても、今回のBig showを見ると、猫も杓子もAIを語っている状況だ。消費者が何を欲しているのか、どのタイミングで提供すればいいのか、どうやって陳列すればいいのか、そしてどのような言葉を使えばいいのか……それらとAIの組み合わせは当分、終わりそうにない。

 ところで小見出しの、「大きく代わる」とは「大きく変わる」のミスタイプではない。小売業とは、ほとんどAI業になっている。そして小売りを語るとは、もはやテクノロジーを語ることになっている。

 冒頭で書いたとおり、業界の先端でさまざまな取り組みがなされているとはいえ、それら技術が世界を完全に覆うには、もっと時間がかかるだろう。先端の食品卸売業はビッグデータとAIを活用するかもしれないが、商店街の八百屋はまだまだ変わらない。

 そしてなかにはAIといっているものの、名前だけのものもある(単なるデータベース技術では、と思えるもの)。さらにAIといっても、その投資対効果に見合うのか。結局はこれまでのように販売しても売上高や利益は変わらないのではないか、というリアルな検証が必要になるだろう。

 その意味で、今年はAIがバズワードから、現場に降りてくる年になるだろう。より多くの可能性を感じる年になるか、肩透かしを食うか。もちろん私は前者を期待しているものの、いくぶん冷静に見守っていきたい。

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