日本からの旅行者がタイのバンコク経由でミャンマーのヤンゴンに到着すると、アジア特有のむっとした熱気が待っている。そして空港前の混沌とした雰囲気が迎えてくれる。空港のカウンターで8000ミャンマー・チャット(約800円)を支払うとタクシーでダウンタウンへ行くことができる。

ミャンマーとタクシードライバー

 タクシーの運転手は流暢ではないけれど、英語で対応し、総じて親切だ。交通渋滞の中、クラクションをひたすら鳴らし続けて走り続ける。この国では、クラクションは危険の意味ではなく、車がそこにいるという存在証明に近い。

 道すがらのろのろとしか動かないためだろうか、様々な観光名所をドライバーは教えてくれる。ここは有名な湖だ、そしてこっちはヤンゴン大学で、アウンサンスーチーのハウスがそばにある。最後には、観光したいところはあるか?と。

 そうか、このドライバーは観光名所に連れて行って追加費用を払わせたいのか、と私は思った。それなら、誘いに乗ってみるのも悪くない。私はガイドブックで学んだばかりの寺院「シュエダゴン・パゴダ」や「タウッチャン戦没者墓地」などを挙げてみた。しかし、私が妙に思い込んでいただけだったのかもしれない。ドライバーは、それならホテルから行け、寺院はクツを脱がねばならないので夜がふさわしい――などと笑顔でアドバイスをくれ、それで会話は終了した。

 ホテルについた翌日。私は効率的に動こうと考え、フロントにタクシーをチャーターできないか相談してみた。翌日にやってきたドライバーと、1日かけてヤンゴンの主要な場所を回ることになった。私は元々ほとんど昼食をとらないが、他人と一緒であれば別だ。昼食はどうします、と聞いた私に、「合わせます、食べなくても大丈夫」との答え。ある場所で私が買い物のためタクシーを離れて戻ると、ドライバーはコーラを持っていた。「あなたに買っておきました」。既に私がミネラルウォーターを買っていたため、感謝とともに丁寧に断ると、はにかんだような笑みを見せた。もちろん、その代金は請求されなかった。

 たった数例でその国の国民性を理解するのは無理がある。

 しかし、私にはなぜか彼らの笑みが心に残っている。

経済特別区では建設が盛ん

 前回から引き続き、ミャンマーからサプライチェーンの改革が起きる可能性を述べる。ミャンマーは2011年に発足したテイン・セイン政権から海外企業に対して広く経済活動を認めるよう動いている。

 それまではタイやシンガポール、ベトナムなどがASEAN(東南アジア諸国連合)の経済発展の中心だった。ミャンマーはその高発展を横にたたずんでいた。ゆえにアジア最後の秘境とも呼ばれた。ミャンマーが中国にとっても経済上の重要国であることは前回に述べた。そして周辺国にとっても、ロジスティックス上の重要拠点となりうる。