日本の生産回帰と問題点

 さて、おなじく、先日公表された「2018年版ものづくり白書」を見てみよう(リンクから無料で見られる)。このうち「第1章 我が国ものづくり産業が直面する課題と展望」にある「第1節 我が国製造業の足下の状況」を確認したい。ここで白書は、正直にこう書いている。「中国での人件費の上昇など海外経済の環境も大きく変わっており、相対的に日本国内の競争力が必ずしも比較劣位をもつわけでないようになり、アジア間での生産体制の見直し、その中で海外拠点の国内回帰の動きも見られるようになった」。つまり、こう書くと身も蓋もないが、日本人も相対的に安くなったから日本国内で生産してもよくなった。

 そこで、中国などの人件費は高騰しているし、実際に、少なからぬ比率の企業が日本国内へ生産回帰しようとする動きを伝えている。ただし、日本もアメリカ同様、生産回帰が進むためには、「高度技術者・熟練技能者の確保」など課題があげられている。

 かつて、低コスト労働を求めて、どんどん海外調達や海外生産を推進した。気づけば日本人も安くなった、だから生産を戻そうと思ったら、やはり人がいない。これはアメリカが通ってきた道なのかもしれない。

 そこで、次に、「2018年版中小企業白書」を見てみよう。項目は「第6章:M&A を中心とする事業再編・統合を通じた労働生産性の向上」だ。

 私は調達・購買部門に属していたし、現在は調達・購買コンサルティングを行っていると言った。大企業は日本の製造業者から低コスト国の製造業者に目を向けた。その結果、どうなったのだろう。この「中小企業白書」によれば、1996年度を100としたときに、2016年度の企業1社あたりの売上を比較すれば、こうなっている。

* 大企業:98.4
* 中規模企業:84.5
* 小規模企業:70.5
(注・引用「大企業とは資本金10億円以上の企業、中規模企業とは資本金1千万円以上1億円未満の企業、小規模企業とは資本金1千万円未満の企業」)

 大企業はなんとか踏ん張っているものの、中規模企業は15%強もの売上を失っている。さらに小規模企業は30%弱の下落にいたる。想像すればわかるとおり、年々、売上が下がっていく会社にいればなかなか希望をもつのは難しいに違いない。

 さらに経営者の年齢分布でいえば山が、20年間で47歳から66歳へ移動した。後継者も、60代以上の経営者が担う企業は、48.7%が不在としている。

 ただし、これはポジショントークではなく、かつて低コスト国にシフトしたことが間違いだとは思っていない。労働集約型の製品であれば、低コスト国からの調達が最善策であっただろう。さきほど中規模企業、小規模企業の全体で売上が下がっていると紹介したものの、研究開発にすぐれ付加価値創造を実現し成長を続ける企業もたくさんある。

 さらに、低コスト国から仕事が戻ってきたといっても、それは日本が担うべき仕事だろうか。さきの「ものづくり白書」を見ると、人材確保対策について、「新規採用」というのが圧倒的で、現在の取り組みのうち「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」は6.2%であり、「IT・IoT・ビッグデータ・AI等の活用などによる生産工程の合理化」は1.3%にすぎない。低コスト国からの仕事が戻るのを待つのではなく、もっと攻めの施策を重ねなければならない、といった指摘はたしかにうなずける。

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