米国では、先日、カルフォルニアで大規模な労働者保護の施策がとられた。衣料品製造のメーカーで働く従業員たちに適正な賃金を支払うよう命じた。調査の大半の企業で、まともに労働基準が守られていなかったとした。時間割増などが払われていないのは当然として、たとえば最低賃金が一時間7.25ドルだったところ、4.27ドルしか支払われていないケースがあった。

 内容としては、摘発を恐れて、記録を改ざんしたと典型的なものだった。ただ、この動きで注目すべきは、その雇用主を罰するだけではなく、労働法を遵守する企業からのみ仕入れるように、小売業各社に依頼したことだ。

 これまで企業はLCCS(ロー・コスト・カントリー・ソーシング)の呼び名で、新興国など労働コストの低い国から調達を進めてきた。自国内で残った従業員たちは、激しい低コストのプレッシャーを浴びてきた。そこで「発見」されたのが、前述の外国人実習生制度だったり、あるいは、カルフォルニアの事例のように、賃金の未払いだったりした。

サプライヤー責任とブランドイメージ向上

 アップルは「サプライヤー責任」を発表し、ファーストリテイリングは「お取引先とともに」を発表し、サプライヤー工場で働くひとたちの権利向上に努めている。双方とも、中身はやりすぎ感があふれるくらいの徹底的な管理になっている。これまでコスト安のために外部企業を使っていたところ、ここにもコストをかけるようになった。単純なコスト安だけを享受できそうにはない。むしろ管理コストがかかるのを前提としながら、「サプライヤーにも優しい企業」を標榜し、ブランドイメージ向上に寄与しようとしている。

 コスト安だけを求め乱暴な管理をしていると、最後に、ブランドイメージの大きな毀損が待ち構えている。

 ところで、ここからは個人的な見解となる。私はずっと調達・購買業務に従業してきた。そしていまでも調達・購買関連のコンサルティングに従業している。そこで、実際に、取引先に常に接してきた。営業のひとに、「おたくは大丈夫ですか」「外国人実習生を最低賃金以下で雇っていませんか」「賃金の未払い等ありませんか」と聞いても、答えは「もちろん問題ありません」としか返ってこない。もちろん、さまざまなチェックシートを用意している元請け企業が大半だ。それでもチェックシートで確認しても、相手から「自社は悪い企業です」と答えを引き出せるはずはない。

 たとえば、自社の従業員にいくら払っているかを調べようと思えば、給料明細を提示してもらうべきだろうか。そんなことができるはずはない。あるいは外注業者にいくら払っているか、支払通知書を提示してもらうべきか。それは不可能ではないだろうが、難しいに違いない。

 たとえば、神戸製鋼所のような製品不良であれば、自社の受け入れ検査を徹底すれば、仕入先の瑕疵を証明できるかもしれない。ただ、製品の受け入れ検査をやっても、サプライヤーの労務状況は推測できない。どうすればいいか。結局は一つしか無いと思う。その一つとは、サプライヤー従業員からの「タレコミ窓口」を設けることだ。個人的な経験から、これしか効果がない。

 つまり、サプライヤーの工場見学なり、あるいは、サプライヤーの関連部門に接するたびに、「もし自社内に問題があったら、私たちに教えてください」と連絡窓口を教えるのだ。しかも、それは単なる内部告発ではなく、社会を良くする目的であると伝えるとなおいい。そうすると、意外なほど連絡が届く。なかには、単に不平不満の内容もある。ただ、重要な告発も含まれている。

 火のないところには煙は立たない、という。なるほど、たしかに、集まった告発は、ある種の真実を照らしている。それは、密告社会を推進することかもしれない。残念ながら、私たちは、密告社会ですら潔癖を証明できるような高潔さを求められているらしい。