成長より成熟を

葛西:僕は、何かプレゼンテーションする時も、こうやって手描きで(手元のスケッチブックの中身をぱらぱらと見せながら)やることが多いんです。そのほうが、パソコン上で描き起こしたものより相手の顔が輝く。

 きちんとしたビジュアルとか活字にしてしまうと、「すでに決まったもの」という感じが漂ってしまうじゃないですか。手描きの方が、相手も僕もイメージが広がるんです。

川島:パソコンで作られた素案って、もう完成してしまったカンプみたいな感じが漂ってしまうかも。

葛西:電子機器を使わず、「丸腰」の方が、発想力って出ますよね。身体を使う喜びをもっと味わってほしい。そういう原始の感覚みたいなものに少しでも近づけば、むしろ未来が拓けると思う。それがパソコンを使ってデザインをすると、ついつい完璧な絵を描こうとしちゃう。でも完璧なものって、実は現物なわけで。

川島:そこに自己矛盾が生じる。

葛西:パソコンでのデザインはシミュレーションのためと頭ではわかっているのに、使い始めると、完成品を作ろうとなっていたずらに時間を費やしていく。そうするうちに、人間の感受性とか潜在能力が劣化していくのではないかと感じるのです。

川島:企画書も同じことですね。パワーポイントの出現で、それらしい体裁の企画書ができちゃうし、完成品に近づけようと、どんどん分厚くなっていく気がします。

葛西:亡くなった広告評論家の天野祐吉さんがよく「成長より成熟」と言ってました。まったくその通りだと思います。成長、成長、進化、進化と声高に謳って、いつになったら「足るを知る」ことになるのかなあ…と思う。

 プラスの上のプラスを追うのではなくて、少数のもの、置き去りにしてしまったものに目を向けて、それをプラスに転じる。デザインという仕事がそのようであったら、喜びを感じます。

川島:成熟のためのデザインの仕事、未来に向かって勇気づけられるお話です。

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