「こんな世の中にしてしまった責任を少しは感じていて…」

葛西:この本に掲載した有元さんの作品、実際の大きさはかなりばらばらなんです。ものすごく大きいものもあれば、とても小さなものもある。そこで、読み手が絵の大きさを想像できるようにということで、大きい絵は大きくレイアウトして、小さい絵は小さくレイアウトするというデザインをしてみました。ただ、一番大事にしたのは、むしろテキストのページのデザインです。

川島:略歴や先品リストが載っているページですね。

葛西:絵の作品集にとっては、テキストは、いわば脇役です。でも、こういう脇役ページのテキストの文字の選び方、組み方がきちんとできているかどうかで、その本のデザインのベースが決まりますし、何よりその本が信頼できるかどうかは、案外こういう目立たないところのデザインにあると思うのです。

川島:タイトルもいいですね。「僕には歌があるはずだ」と帯に堂々と付されています。

葛西:これは、作家の日記の中の一節から、タイトルにしたらどうかと提案したのです。

川島:書籍の冒頭に、日記の一部が記されているのですが、「ささやかな出来事やささやかなキッカケを大事に大胆につむぐ。これが明日からの仕事だ」というくだり、胸に響きます。

葛西:こういう感覚は、もしかすると今の時代、少し希薄になっているかもしれない。でも、こういう喜びって大事なことで、そういう空気を今の子どもたちに伝えることができればいいという密かな思いもありました。「皆があっちの泉に集まっている時に、実はこっちにおいしくていい泉があるぞ」みたいな仕事、もっともっとやっていかなければならないと思っています。

川島:葛西さんは1949年生まれ、いわゆる団塊世代でいらっしゃる。団塊世代は、日本が戦後の高度経済成長期を上り詰めていく原動力になった世代とも言えます。だからなのでしょうか。今でも右肩上がり、がんがん行け、というモードを持った方、決して少なくなくて、ときどき付いていけないなと思っちゃいます。

葛西:僕も、こんな世の中にしてしまった責任を少しは感じていて。「そっちだけじゃないぞ」ということは思いますし、伝えていかなければならない。何と言われても言いたいことを言うぞと。この歳になって、そういうところが出てきましたね(笑)。

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