広告以上に好きな仕事、それは本の「装丁」

川島:葛西さんは、グラフィックに限らず、映像やプロダクト、書籍の装丁、企業のブランド作りまで、多くの仕事を手がけていらっしゃいますが、中でも「これは好き」というジャンルはあるのですか。

葛西:一番好きなのは、本の装丁の仕事です。

川島:え、そうなんですか! 意外! 

葛西:装丁の依頼が出版社の編集者からあると、まずは原稿=ゲラをもらって、こつこつと書いてある言葉を読み込む。どういう文字組にしてどんなフォントを選んだら本文が読みやすくなるか。カバーに関しては、どんな絵とどんな文字を配置するか。その本の全体の構造を見抜いてかたちにする。それが装丁という仕事だと思っています。この過程が大変なんだけど楽しいんですね。

 たとえばこちらの本。『僕には歌があるはずだ』。画家の有元利夫さんの画集で、作ったばかりです。

川島:ハードカバーでなくソフトカバーなのに、上質なデザイン。紙のセレクトから印刷のクオリティも手が込んでますね。

葛西:有元さんは、もともと大手広告代理店で広告の仕事をしていた方なんです。ところが若くして会社を辞めて画家になり、こつこつと作品を描いていらっしゃいましたが、なんと38歳の若さで亡くなってしまった。奥様が保存しておいた数々の作品を、きちんとまとめて画集にしたいということで、出版社を通じて依頼が来たんです。

 没後30周年を記念して、決定版的画集を作ろうと、僕も力が入りました。本のデザインをしていると、作者が作品を作ってきた時間に寄り添うことになる。この本をデザインしている間、画家の有元さんの絵を描いている時間と、ずっとおつきあいしたような感じがありました。

川島:装丁って、ただ本のカバーをデザインするだけじゃないんですね。

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