「我ながら、ちょっと感動しました」

葛西:「iPhone」の広告の話が出たついでに。ある人から聞いた話ですが、アップルでは、屋外に看板広告を出すときには、周囲の環境に配慮しなければいけない、という内部規律があるそうです。

川島:看板広告って「目立ってなんぼ」ですよね。周囲の環境に配慮し過ぎると「目立たなく」なって、広告効果もなくなってしまうのでは?

葛西:理想が高いということだと思います。「悪目立ち」しすぎたら、その商品の存在を見た人に印象づけることはできるけど、「悪印象」になってしまうかもしれないじゃないですか。

 僕も、自分の作った広告が駅や街に貼られると、必ず現場に行くことにしています。どんな風景になっているのかを見てみたくて。広告単体ではなく、周囲と一体となった時、自分の作った広告がどう見えるのだろうということが気になるのです。

川島:どうですか、実際にご覧になって。

葛西:少しにんまりするときもあるし、ちょっとがっかりするときもあります(笑)。

川島:葛西さんでもそうなんですね(笑)。最近にんまりしたのは?

葛西:最近ではないですが、2004年に、セレクトショップのユナイテッドアローズが展開している「グリーンレーベル リラクシング」というブランドの駅貼りポスターを手がけた時ですね。JRのあちこちに貼り出すことになりました。駅のホームがインテリアのように見えたらいいなあ、と思ってデザインしたのです。

川島:思い出しました。「グリーンレーベル リラクシング」がロゴを変えた時のシリーズ広告ですね。

葛西:そうです。「グリーンレーベルリラクシング」って長いけどいい言葉ですよね。特に「リラクシング」が。このネーミングに引きずられて、木の葉のようなシルエットのマークと、1行の小文字のロゴデザインを考案しました。

川島:そうそう、覚えています。渋谷駅のホームのビルボードにずらりと並んだ風景は、ちょっと壮観でした。葉の一部がクローズアップされていたり、たくさんの葉が縦横に整列して並んでいたり、「ユナイテッドアローズ、かっこいい広告を作るなあ」と思ったんです。素敵な言葉がポスターに添えられていましたよね。

葛西:そのうちの1枚は、一人の少女の成長物語になっています。コピーライターの一倉宏さんによる文章です。

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川島:葛西さん、駅で実際にご覧になって、どう感じました?

葛西:我ながら、ちょっと感動しました。渋谷駅で見たんですが、雑然としたホームに、緑が添えられてちょっと落ち着いた雰囲気になったような。ああ、こういう渋谷駅、見たことなかったよな、と。

 これにはちょっとしたこぼれ話があって。サン・アドに入社したデザイナーから、「あの広告を見た時、文章を読んで泣きそうになりました」と言われたのです。「ああ、伝わってくれたのだ」と、心底、嬉しかったですね。

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