「ご本人が「アベノミクス」と言うのはどうなんだろうか」

葛西:新聞関連のとある会合で、「言葉」について話したのですが、「アベノミクス」という言葉。新聞も「アベノミクス」を当然のように使っている。そこに、僕は疑問を感じると言ったんです。そもそも「アベノミクス」と言い始めたのは誰なんでしょうね。首相自らの政策につけた「広告」ですよね。
ご本人が「アベノミクス」と言うのはどうなんだろうか…それをメディアが表現する時は「現内閣による経済政策」にすべきじゃないか、と。結局どの新聞も実行してくれませんでしたが(笑)。
似たような言葉が「クールジャパン」ですよね。あれも、自らが言うべき言葉じゃない。海外の人たちがそう言ってくれるならいいのですが。「俺ってクールだぜ」って大声で叫んでいるのと一緒。かなり恥ずかしいことですよね。「照れ」がない。
川島:言われてみれば、その通りです。
葛西:広告的なフレーズによって、いろいろ世の中が動いた時代があった。それはそれで悪いことではなかったのですが、今は、悪い意味であらゆる表現が「広告的」になり過ぎている。
テレビも同様で、お笑い番組の背景の汚さも気なるし、毒々しい色ですべてのセリフを字幕化しているのも嫌ですね。それも影つきのような俗っぽい文字組みで。急にうわーっと拍手したり笑ったりというのも、必要のない演出と感じます。おおげさなことばかりで、辟易します。
川島:ただ、そういう要望、多くないですか? 広告の「嘘」の部分が大きくなっちゃうような。
葛西:はい。残念ながら。
川島:本来の姿より大きく見せたり、かっこよく見せたり、自慢し過ぎたりといったことですね。
ところで葛西さんは、書き言葉に限らず、話し言葉についても、丁寧に真摯に向き合っていると感じます。言葉へのこだわりって、昔から持っていたのですか。
葛西:いえいえ、僕は子供の頃、国語が一番苦手だったんです。作文の時間や宿題は苦痛でした。ですから言葉が上手に使える人、伝わってくる人を羨ましいと感じてきました。苦手だったからこそ、憧れていたからこそ、嫌な言葉には敏感なのかもしれません。
川島:葛西さんにとって、伝わる人の言葉に共通する点、ありますか?
葛西:身から出たであろう言葉ですね。そして、熟語を多用するより訓読み。業界用語や英語を多用しない。略語を使わない。スマホって変な言葉ですね。嫌いなんですよ(笑)。
川島:最近の広告では、安い、便利という謳い文句も、やたら目につきます。
葛西:便利なのは決して悪いことではないのですが、そこに溺れないでほしいと思います。世の中は、何かが便利になると、必ず誰かが不便を背負う。お金を余分に持っている人がいると、必ず誰かのお金が足りない。汗水垂らさず怠けている人がいると、必ず誰かが汗水垂らしている。つまり、総量は変わらず、分岐点みたいなものが移動しているだけ。そう思っています。
川島:ふむふむ。
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