日本を代表するアートディレクター、葛西薫さん。サントリーのCI計画や、中国を舞台にしたウーロン茶の一連の広告をはじめ、虎屋のロゴデザインやパッケージ、ショップなどにもかかわる総合的なデザインや、ユナイテッドアローズの広告などを手がけています。
広告業界では知らぬ者はいないであろう葛西さんに最初にお会いしたのは15年ほど前。
抽象的な表現や難解な言語、カタカナ用語を一切使わず、平易な言葉で、ユーモアを混ぜながら、自身の仕事を的確に表現する。何て「やわらかいひと」なんだろう、と気を許していると、突然、どきっとするような厳しい発言が飛び出す。
「いま流行っているあの広告、良いと思いません」
インターネットが普及してはや10数年、スマートフォンが台頭し、広告を取り巻く環境は日々変わっている。そんな時代だから、葛西さんにストレートな質問をぶつけることにしました。
「葛西さん、良い広告って何でしょう?」
(前回から読む)
「画面の向こうにあるもの」を見せる

川島:葛西さん、よい広告ってなんでしょう?
葛西:うーん、あえていえば、風の吹いているおじさん、みたいな広告、かなあ。
川島:風の吹いているおじさん?
葛西:子どもの頃から、あるタイプの大人に憧れていて…。生きるのが下手だけど、ちょっと魅力的なおじさんです。
川島:おじさん。
葛西:ダメなところがいっぱいあるんだけど、なぜか子供に好かれるし、女の人からもモテる。そんなおじさんの魅力は何か。
そうだなぁ、表現し過ぎないことかもしれません。多くを語らず、ぽつりと一言、残していった言葉に、「あれはこういうことだったんだ」と、後で気づかされる。そんなおじさんの持つ“含み”の大きさをかっこいいと思ったんです。子どもの頃は、身の回りにいたんですよ。そんな、どこかダメだけどかっこいいおじさんが。
川島:ああ、なんとなくわかる。決してハンサムじゃないのに、不思議と飲み屋さんなんかで好かれちゃうみたいな。
葛西:昔、誰だったのか、世の中には、「風が吹いている人」と、「風が止まっている人」がいるって言った人がいて、うまいこと言うなあと感心したことがありましてね。
川島:風が吹いている人?
葛西:ええ。風が吹いている人って、切なさや辛さをどこかに背負っている。だけど、それを自分から口にすることは決してない。にもかかわらず、その切なさや辛さが背中から見え隠れしている。
すべてを露呈しないで、何かを抱えながら生きている男の魅力。わかっていても語らない。両足をつっこまない。丸出しじゃない生き方。そして、広告もそんなおじさんのような存在じゃないとだめだよなあ、と思っているわけです。
川島:だから、よい広告って、風の吹いているおじさん、なんだ。その視点で今度から広告を眺めてみます。葛西さんの広告は、まさに風が吹いていますよね。なんというか、「余白」がある。
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