「レンガがそうしたいと言っていたから」

葛西:こんなきれいな言葉なのに、大声で言われたら、言葉が恥ずかしがるのではないか。紙の立場に立てば、こんな嘘っぽい言葉を印刷されたくないだろうなあ。――とまあ、そんな想像をするわけです。

川島:見る人間や、キャスティングされる役者のことばかりではなく、言葉や、文字や、紙の「気持ち」まで考える……。

葛西:ルイス・カーンという建築家がいて、大学での生徒との問答を読んだことがあるのですが、「先生の作品で、レンガをアーチ状に組んだものがありますが、なぜああしたのですか」という質問に対し、「レンガがそうしたいと言っていたから」とカーンは答えている。この話、大好きなんです。その通りだと思います。

川島:なんだか自然相手の仕事みたいですね、庭木の手入れや田畑の管理みたいに。ただ、広告を作る時って、クライアントや広告代理店は、できるだけ声高に、できるだけ目立つものをと言ってきそうです。そういう時、葛西さんはどうするのですか?

葛西:話を聞いているうちに、「今回は広告そのものをやらない方がいいのでは?」と広告主に言ったりすることもあります。ただ、話しても通じない場合が多いのですが(笑)。

 目立たせたい、だから商品をどんと置く広告を作ってくださいという注文もあるのですが、そのためには、商品そのものが堂々たる表情を持っていなくてはならない。それなのに、デザインや商品内容が今ひとつ……、ということが。

川島:昨年、新宿にできた複合商業施設「ニュウマン」の中に、和菓子の老舗、虎屋の新しいお店「TORAYA CAFE・AN STAND」が入っていますが、葛西さんは、ロゴやパッケージにとどまらず、さまざまなデザインを手がけられました。

葛西:今回は、いままで経験していなかったことに挑戦したい、というのが虎屋自身の意思でもありました。僕は、店の姿が見えてきたあたりから、最終的なデザインに落とし込んでいく役割として、プロジェクトに加わりました。

 参加した当初は、かかわっているメンバーが多く、それぞれが抱いている思いや、新しいことへの気負いがあって、なかなか決められないという感じが漂っていました。一方で時間はどんどん迫ってきて、みんながちょっと切羽詰まっていたのです。

川島:どうしたんですか?

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