デザイナーは意思決定を仕向けてはいけない

川島:経営トップと直接かかわる仕事が増えてくると、その企業にとって重要な意思決定に携わることも多いのでは?

佐藤:確かに経営トップと直接やりとりさせていただくことが多いですし、大きな判断についての相談を受けることもあります。気をつけているのは、デザイナーが意思決定をしてはいけないということ。正確に言えば、意思決定を仕向けてはいけないということです。つまり、あくまで主体はクライアントの経営トップであって、デザイナーである僕ではないとうことです。

川島:じゃ、そういう場面では、どのあたりまで踏み込むんですか。

佐藤:経営者が押すボタンの選択肢をいくつか用意するのが、デザイナーの仕事だと考えています。つまりオプションを提示するということ。A案、B案、C案みたいなことです。

川島:そこに、どんな案を盛り込むのですか。

佐藤:その企業が持っている強みを活かして、ほぼ一点突破で進む方向や、チャレンジしたことはないけれど、大きな可能性がある方向など、与件を踏まえた上で、方向性の異なるアイデアを出すことにしています。

川島:なるほど。でもそうすると、経営トップの方から「佐藤さんは、A案とB案のどちらがいいと思いますか」って聞かれませんか?

佐藤:聞かれます。でもそういう時、それぞれの案のメリット、デメリットしか言わないことにしているんです。デザイナーにとっては、どちらの案が採用されても良い結果を生めると思って出しているので。

川島:誘導やアドバイスは、一切なしということですか。

佐藤:あえて誘導するとすれば、それは、経営トップの方が中途半端なボタンの押し方をしようとする時です。Aというボタンを押しながら、Bというボタンも半分押すといったように。その場合中途半端な結果しか出ないので、押すならばどちらか一方だけで、という話をさせていただいています。それと、僕なりに工夫しているのは、どのボタンをどのタイミングで提示するかということ。そのプロセスも含めてデザインしているのが「ネンド」の仕事と言えるかもしれません。

川島:おお、それはかっこいい。

佐藤:企業の意思決定にかかわる仕事の場合、経営トップの方も僕も、互いにプロフェッショナルとして真剣勝負しているんです。そして、経営トップが何をどう選ぶかによって、どうしたいのか、何を目指しているのかがはっきりしてくるんです。その会社の姿勢や、経営トップの方が考えていることが、明確に見えてくるということです。