スナック感覚でリアル店舗に行くようになる

川島:「コミュニティブランド」という考え方、何かかたちにする可能性はないんですか?

設楽:今、僕がいろいろやってしまえば、ある程度はかたちにはなると思うんです。でも、もっとみんながフリーな状態でアイデアを集めて具現化して、今までにないことを生み出せないと、意味ないかなと思っていて。

川島:新しいコミュニティが新しいブランドを生むというムーブメントが、社長の鶴の一声じゃなくて、社内から生まれていったら、企画やバイヤーの人たちの発想が広がって、商品が楽しくなってくるでしょうし、販売スタッフの人たちで、面白い会話ができる人、もっともっと増えていきそうです。

設楽:これから服を買うという行為そのものは、リアル店舗が廃れていって、eコマースに取って代わられていく。この流れは、間違いようのない事実です。でも、リアル店舗が完全になくなるわけではない。店頭販売という仕事は、これからもっと意味が出てくると思うんです。

川島:ウェブの時代に、店頭販売に新しい価値が出てくると?

設楽:そう。人と人とが出会う。会話をする。そこに意味が生じる。価値が生まれる。お客様が店を訪れて、スタッフと会話を交わす。「この前、あの映画が面白かったよ」とか、「あのミュージシャンがいけてるよね」と雑談が行き交う。

 こうしたチャット=雑談は、ウェブ上でももちろんできるけれど、リアルなコミュニティが形成されると、そこにわざわざ行きたくなる。趣味の話をしたり、ムダ話をするのに店に出かけていく。いわば店のマスターに会いに行く気分(笑)。そんな魅力を持ったリアル店舗を作らなければいけないと思うのです。

川島:お話を聞いていると、スナックに通う気分で、服の店にいくようになる。つまり、スナックのマスターやママのような吸引力が求められるわけですね、店頭のスタッフには。

設楽:うちはもともと「Happy Life Solution Company」を掲げ、“幸せな暮らし”を提案してきた企業です。あるとき、僕は、社員の幸せって何だろうと考え、究極は2つしかないと思った。ひとつは「やりがいのある仕事」、もうひとつは「ギャランティー」。

川島:確かに。仕事って、その2つの要素に集約できますよね。

設楽:僕はそもそも、「儲けたい」一心でビームスを経営してきたわけじゃない。「天下を取りたい」と思ってきたわけでもない。あえていうならば、「時代を変えたい」と思ってビームスを率いてきたのです。時代を変えるためには、仲間である社員たちが幸せにならなきゃダメ。そうするには、まず社員に「やりがいのある仕事」を作ること。そのためには、もっと「自由で開かれた」企業にしていく必要がある。

川島:「自由で開かれた」って、もともとビームスが持っていたイメージですよね。その意味では、今、ちょっと大企業的な優等生に見えているかもしれません。

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