(前回から読む)
「コミュニティブランド」という方向性
川島:かつて『ビームス戦略』を書いた時、強く印象に残っているのは、「100人いれば100のビームスがあっていい」という設楽さんの一言です。つまり、チェーン店ではない、ということですね。

1951年 東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、1975年 株式会社電通入社。プロモーションディレクター・イベントプロデューサーとして数々のヒットを飛ばす。1976年 「ビームス」設立に参加。1983年 電通退社。自らをプロデューサーと位置付け、その独自のコンセプト作りによりファッションだけでなく、あらゆるジャンルのムーブメントを起こし、セレクトショップ、コラボレーションの先鞭をつけた。(撮影:鈴木愛子、以下同)
設楽:ビームスは、百貨店になる必要はなくて、十貨店でいいと僕は思ってきました。セレクトショップの基本は、個人のフィルターを通して選んだものを提案することにある。つまり、誰もが訪れてくれる店じゃなくて、好きな人だけ来てくれる店であればいい。それは僕の中で、今もまったく変わっていません。ただ企業が大きくなっているし、時代が変わる大きな風を感じていて、それに対応した組織のあり方と働き方を考えなくてはと思っています。
川島:新しい働き方ってどういうイメージなんですか?
設楽:うちは、ファストファッションでもなければラグジュアリーブランドでもない。じゃ、ライフスタイルショップかというとそうでもない。何なのだろうと考えていった時に、「コミュニティブランド」って方向はありだと思ったのです。「そこに集いたい、仲間になりたい」って思わせる組織であることと、それに対応した働き方です。具体的に言えば、“副業あり”の会社にしたいと考えているのです。
川島:“副業あり”ですか?
設楽:基本は週休2日ですが、3日でも4日でも5日でもいい。週休2日の人は、週休5日の人より給料はいいけれど、週休5日の人は副業をやってもいいことにする。何かモノ作りをしてもいいし、自分でちっちゃな店をやってもいいわけです。
川島:それは新しい働き方ですね。
設楽:米国にパタゴニアっていう企業、あるじゃないですか。あそこは、サーフボードを社内に持ち込んでいる人が結構いて、波がいい日は、会議をやめてサーフィンに行っちゃう。「こんな日は会議なんてやっている場合じゃない」って(笑)。企業の常識としては逸脱しているし、そんなことばかりやっていたら、企業体は成立しないのかもしれない。でも一方、そういうことが生み出す企業イメージだったり、ブランド価値だったりということを大事だと思っているのです。
川島:それに、そういう会社は魅力的だから、働きたいっていう人、結構いるんじゃないでしょうか。
設楽:これからは、単に売り上げを上げる、利益を拡大するという目標だけでは、人は付いてこないと思うのです。仕事の中で、自分がやりがいを持てる要素、将来の夢に向かって少しでも近づいていけるステップがあることが大事。だから、「自分の好き」がはっきりわかっていて、「ビームスとかかわっていたい」という人は、物凄く大きな財産になる。それが実現できたら、面白いものって自然に集まってくると考えているのです。
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