伊藤忠商事の事業会社のひとつ、伊藤忠ファッションシステムに私が入社して今年で33年。こんなに長いことお世話になると思っていなかったが、それだけ恵まれた環境を与えられてきたのだと思う。
ただ日本の企業の多くがそうであるように、女性が働く場としての課題はずっと感じてきた。そんな中、大手総合商社初の女性執行役員として、2013年に伊藤忠商事の執行役員に茅野みつるさんが就いたのは朗報だった。伊藤忠商事の企業広告のプロジェクトを通し、茅野さんと知り合いになって、明るくはきはきてきぱきしたキャラクターに「こういう方だから大役を担われたんだなあ」と腑に落ちた。
茅野さんの趣味は声楽。それも、サントリーホールの小ホールを借り切ってリサイタルを行うほどのレベル。そこで聴いた茅野さんの歌声は高らかで胸に響く。天は二物を与える。
今年2017年4月の人事異動で、茅野さんは日本を離れ、伊藤忠商事の米国ビジネスを見る経営陣としての道に進むことに――これまた、総合商社初の海外支社女性トップに抜擢である。
そんな茅野さんが、どんな育ち方をして、どんなキャリアを積んで今にいたったのか。彼女にとって、かっこいいこと、かっこ悪いこととは?
女子校育ちはリーダーシップに役立つ!?
川島:茅野さんは、いつお会いしても、明るくて元気いっぱいですが、小さいときはどんな子どもだったんですか?
茅野:父が日本の自動車メーカーの経営に携わっていて海外赴任の時期が多かったんです。私はオランダで生まれました。それから4歳までイギリスで育ちました。とにかく歌を歌うのが大好きで、相当おてんば。あ、いまとあんまり変わらないですね(笑)。いつも先生に叱られていたのを覚えています。

伊藤忠インターナショナル会社EVP(Executive Vice President)兼 伊藤忠インターナショナル会社CAO(Chief Administrative Officer)兼 伊藤忠カナダ会社社長。
オランダ生まれ。スミス・カレッジ卒業(BA cum laude)、コーネル大学ロースクール修了(JD)。カリフォルニア州弁護士。国際法律事務所のパートナーを経て、伊藤忠商事に入社。2013年、大手総合商社初の女性執行役員に就任。17年4月から現職。
05年には世界経済フォーラムから「若きグローバルリーダー」に選ばれる。06年には、アジア・ソサイエティより「Asia 21」、Newsweekより「世界が認めた日本人女性100人」に選ばれる。声楽家としての活動も積極的に続ける。(写真:大槻純一、以下同じ)
川島:日本にもどってきたのは?
茅野:4歳のときに日本に帰国したんですが、それまで英語圏で暮らしていて日本語がちゃんとしゃべれなかったうえに、ものすごいカルチャーショックを受けました。
川島:何が一番のショックでした?
茅野:英国ではガールズファーストみたいに、女の子が大事にされていたのに、日本では男の子が何かいばっている(笑)。規則が多いのにも驚きました。小学校5年生のときに、大好きな声楽のレッスンを始めたのですが、父が今度はロサンゼルス勤務になって、中学2年生で再び海外住まいになりました。カトリックの規則が厳しい女子校から、いきなりカリフォルニアの公立中学校に転校です。この学校が、規律正しい日本の女子中学と真逆の環境。裸足でスケートボードに乗って学校に来る子がたくさんいて、唯一の規則は「靴を履くこと」だったくらい。あとは何しろ自由(笑)。授業中にピザやらマフィンやら食べている子がいて、先生が「止めなさい」と注意すると「なぜですか?」って聞くわけです。日本では厳格な規則主義が貫かれていて「規則は規則ですから」で終わっていたのに、米国では先生に対しても、納得が行かなかったら「Why?」と聞くのが当たり前。文化の違いは大きいと思いました。
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