現状に甘んじていたら未来は開けない

川島:アジアについてお尋ねします。日本の百貨店やアパレルは過去にアジアに進出したけれど、ビジネスに失敗して撤退したところが多いのですが、ルミネはあえて今、シンガポールなどでのアジア展開を始めています。

新井:「なぜ今、ルミネがアジアに出店するのか」「うまくいくはずがない」「利益が出せない」などの声を、社内外から聞くことが数多くあります。ただ私は、今こそ打って出ていかなければ、ルミネの将来は、少し大上段に言えば、ファッション業界の将来はない。それくらいの危機感を持って臨んでいるのです。厳しい時代だからこそ、その困難や障害を、チャンスに変えていくことが求められます。「国内だけで閉じていて、ほどほどの業績をあげていればいい」、くらいに考えている状況では、未来に向けた打開策は見えてこないと考えています。

川島:新井さんは、そういう打開策も含め、どんどん新しいことに挑戦していますが、いわゆるリスクは感じないのですか。

新井:最初から可能性を止めるのではなく、やってみないとわからないし、わからないからやる価値があると考えているのです。

川島:しかもルミネは若い人材が活躍しているといわれます。それは会社の方針ですか。

新井:企業の色にあまり染まっていない段階でチャンスを与えることで、若い人に育って欲しいと思ってのことです。

川島:だから次々と抜擢して責任ある仕事を任せているのですね。

新井:それも、人という財産への投資のひとつであり、そのうち何人かでも、この機会を受け止めて、血となり肉としてくれればという思いからです。とにかくまずは、自分の仕事を一生懸命やっていくことで、自分の生き方として取り組んで欲しいと思っています。

 それは、たとえば日本各地にある産地を訪ねるでもいいですし、工場に行って作り手の人と話すでもいい。あるいは本を読んだり美術館に行ったりと、創造的に勉強する余地は、あらゆるところにあるわけですから。いずれにしても、やってみてもいないのに、外野が「成功するはずがない」と評論するのではなく、自らが当事者になって取り組んでいくことが、将来を形作ることになるという、強い意思を持つことが必要です。

川島:それはそうですが、私自身、30年以上も会社員をやってきて、もし自分が新しいプロジェクトのリーダーとして抜擢されたら、心配だったり怖かったりということ、絶対にあると思うんです。企業にいると、失敗したら叱られるっていうのもあるし、サラリーマン社会では、失敗したらラインからはずされるっていうのもあります。

新井:その意味では、チャレンジは「練習」ととらえてもいいのです。スポーツでも学問でも、普段は練習の連続で、試合や試験が本番です。本番をうまく行かせるため、厳しい練習に日々、励むわけです。そうであれば、まずは一生懸命、ひたむきに練習し続けていくことが必要ではないでしょうか。企業によっては、身体や心を使った練習ではなく、頭を使った記憶力の勝負を問うところもあります。でもそこには、独自の発想もなければ、身体で覚えた経験もないわけで、ほとんど意味がないと私は思っています。

川島:確かに練習をいっぱいする中で、自分の短所を知って補っていく、長所がわかって伸ばしていく、そうやって上達していくことってありますね。

新井:ビジネスだけが、練習もなしで、いつも本番というのもおかしなことで、結果だけを追い求めているのは理解が難しい。つまりプロセスの中に、多くの学びや経験があり、会社や社会の将来のための知見があると思うのです。企業に少しでも余力があるなら、それを社員の成長のために使っていかなくはなりません。

川島:ルミネの社員の方と仕事をご一緒する機会があるのですが、新しい課題への不安を抱えながらも、とにかく前に進んでいて、進みながら成長していく姿を頼もしいと感じています。

新井:そう言っていただくと嬉しいです。というのは、やってみて失敗したっていいのです。なぜなら、新しい課題に挑戦する時に、最初から失敗することを前提にしている人も、失敗して喜んでいる人もいないはずですから。そして失敗しても、そこを深堀りして理由を探った上で、次にこの経験を活かそうと、努力して精進していくところにこそ、社会が会社や個人の成長があると思うのです。失敗から多くのことを学び、活かしてほしいのです。

川島:でも実際のところ、行き詰まったり失敗すると、物凄く落ち込みます。

新井:それは、竹と同じで、節ができるととらえたらいいのではないでしょうか。落ち込んで立ち止まって、区切りをつけるから、人は強くなっていくのです。その時期の密度が濃ければ、それが節になって、次に向かって伸びていくことができる。その繰り返しが、人の成長をかたち作っていくと、私は考えています。

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