ファッションは生き方、価値観を表現するために身にまとうもの

川島:新井さんにぜひお尋ねしたいのですが、ファッションの持っている本来的な意義とは、いったい何なのでしょうか。

新井:ファッションとは「ライフバリューを提供するもの」だと思います。その人の生き方であるとか、価値観を表現するため、身にまとわれるのがファッションではないでしょうか。その意味では、工業製品として、大量に均質なものが行き渡るファッションというやり方は、本来の意味から逸脱したものだと思います。「他にないものだから」「私に似合うものだから」という思いで、ファッションは創られ、身に着けられるもの。独自の価値を追求していくことを、作り手も使い手も求めているのです。だからこそ機能や価格で勝負するのではなく、憧れや魅力を創造していくことこそが大事なのです。

川島:つまり、ファッションの価値とは、どんな「ライフバリューが提供できるか」にかかっているわけですね。

新井:そうです。魅力あるものにしていかなければ、当然、憧れは生まれてこないわけで、それをやり続けなければいけないのです。その意味では、いわば“ファッション育”をすること、つまりお客様のニーズを育てていくことも大事なことです。また、ファッションとは、デザインにかかわる人たちだけが生み出すものでなく、日本各地にある素晴らしい素材や、さまざまな職人や工場が持っている高い技術力などが、ひとつにつながって生み出されるものです。そういった商品にまつわる一連のストーリーを、売り場やスタッフや商空間などを通して伝えていくことも含め、「ライフバリューを提供するもの」と言っているのです。

「販売」と「営業」は違う

川島:確かに、自分が服を選ぶ時って、何らかのかたちで自己表現を意識しているし、その服が生まれた背景にあるストーリーを聞くと聞かないとでは、価値がうんと違ってくるものです。

新井:価値の中には必ず、人の志や思いといったものが含まれているのです。しかも、ルミネは小売をやっているわけですから、価値を伝えて感じていただくことが仕事。小売とは、個を売ることなのです。単に販売しているだけではダメで、営業していかなければなりません。では、販売と営業はどう違うかというと、販売は単に商品とお金の物々交換、つまりお客様の要望された商品を、お金と引き換えにお渡しすること。一方で営業は、商品本来の価値をきちんと伝え、理解した上で買っていただく。要は価値を伝え、認めてもらい、使ってもらうということです。

川島:これからの時代、人々は服以外のことに、もっと興味を持つようになると言われたりしていますが。

新井:服が売れない理由として、そういう言われ方があるようですが、私は言い訳しているに過ぎないと思います。世の中には、新しいファッションを求めている人はたくさんいるわけで、そこに正面から向き合わなければ、真のニーズを把握した上で、お客様の要望を充たすことはできないと考えています。そして、こういう時代だからこそ、マーケットやお客様に向けて、自分たちが意図する情報発信を、着実な形でやっていくことが重要です。大量生産・大量販売時代の手法で売ろうとしていたら、もはやダメなわけです。90%値引きやただ同然に売りたたくやり方になっていくようでは、生産者、マーケットや顧客に対して、信頼関係は築けません。極端に言えば、お客様一人ひとりの思いを読み込むきめ細かさ、丁寧さこそが求められてくるのだと思います。