マーケティングより「自分のリアルを追求しろ」

川島:「自分のリアルを追求しろ」ってどういうことですか?

都築:結局、自分が心底ものすごく面白いと思ったことは、他にもどこかに同じように面白いと思ってくれる人が必ずいるということ。なぜかというと、その面白さは自分の内なるリアルから出てきている切実なものだから。そういう切実でリアルな面白さは、どこかにいる誰かがきっと共有してくれるんです。

 その共有してくれる誰かは25歳の独身女性かもしれないし、65歳のおじいさんかもしれない。そこにいる誰かは「ひとりひとりの読者」であってF1だのM1だのといった「読者層」じゃないんです。

川島:わかります。わかりますけど、そう言ってくれる上司ってなかなかいない。度量が大きい編集長だったんですね。でも、だから「ポパイ」って面白くって大ヒットしたんだよなあ。

都築:僕の場合、それが最初の「上司体験」だったから、雑誌の編集ってそういうものだと思っていたんです。編集部員が個人のリアルな面白さを追求すれば、雑誌は面白いくなるって。でも、マガジンハウスを出て「ポパイ」から離れて、他社の雑誌と付き合うようになって、ほとんどすべての他の雑誌は違うってことを知りました(笑)

川島:雑誌に限らず、大半の企業で新しいことをしようと思ったら、まず企画書を作り、会議でそれを説明して承認を得る。その手順をたくさん踏んで、物事を進めていくのが常道です。でも、そうやって企画書を練っていくうちに、最初に「こういうことやったら面白いんじゃないか?」と自分の中で思いついたアイデアが、どんどんつまらなくなっていくんですよね。

都築:すっごくよくわかる。

川島:結局、会議っていうのは組織と上司の「リスクヘッジ」でもある。みんなで決めるから、失敗しても「みんなでいいって言ったよね」みたいな言い訳のために存在する、という側面がある。ダメな会議は集団責任回避システムに過ぎないと思うんです。それに、みんなの総意になるから、はみ出ていく面白さみたいなのがどんどん削られて丸くなっちゃいますよね。そんなことしている間に、どんどんアイデアの鮮度は落ちていく。

都築:プロは「みんなでやる」んじゃなくて、自分の得意分野ごとに責任を分担しなくちゃダメだと思うんです。「営業の意見」とか「市場調査」なんて関係ない。編集者だったら全力でベストの記事、最高の本を作って印刷に回す。営業はそれを全力で売る。いい本ができなかったら、編集者が責任を取る。誰が見てもいい本なのに売れなかったら、営業が責任を取る。それがプロの覚悟ってものだと思うんです。難しいことなんか何もない。