ジンズと言えば、リーズナブルでおしゃれなメガネというイメージが定着している。しかも、そこに留まることなく、パソコン用メガネ「JINS PC(現在はJINS SCREEN)」を大ヒットさせたり、乾燥対策の「JINS MOISTURE」や花粉対策の「JINS 花粉CUT」を開発したり、時代にフィットしたものを打ちだし、企業としての勢いに強いものがある。

 代表取締役社長を務める田中仁さんは、ユニークなキャラクターの持ち主と聞いていた。高校卒業後に信用金庫で働き、起業して今にいたる。途中で慶應義塾大学の大学院に通った経緯もユニーク。是非一度、話を聞きたいと思い、この連載に登場していただいたのだ。

 第1回では、何事も振り切る覚悟で取り組むという、田中社長の仕事に臨む姿勢を知ることができた。今回は次々と事業を成功させてきた、田中社長のビジネスの決断について、聞いてみたい。

<span class="fontBold">田中 仁(たなか・ひとし)氏</span><br /> 1963年、群馬県生まれ。1988年ジェイアイエヌを設立、代表取締役社長に就任。2001年アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始し、2006年大証ヘラクレス(現JASDAQ)に上場。2011年『Ernst&Youngワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011』モナコ世界大会に日本代表として出場。2013年東京証券取引所第一部に上場した。
田中 仁(たなか・ひとし)氏
1963年、群馬県生まれ。1988年ジェイアイエヌを設立、代表取締役社長に就任。2001年アイウエア事業「JINS」(ジンズ)を開始し、2006年大証ヘラクレス(現JASDAQ)に上場。2011年『Ernst&Youngワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー2011』モナコ世界大会に日本代表として出場。2013年東京証券取引所第一部に上場した。

赤字に陥って考えた仕事の意義、会社の意義

川島:前回は、新しいことをやるかやらないかは、自分がどこまで信じるかどうかに拠るというお話をうかがいました。そして周囲が反対したことが、結果的に成果を出すケースが多いということも。田中さんの「勘」の良さを支えているものって何なのでしょう?

田中:私の持っている「動物的勘」は何かというと、累積経験だと思うのです。

川島:成功も失敗も含めて、無数の判断をして結果を得ている。その経験を通じて、田中さんが身に着けたものが大きいということですね。身体の中にビッグデータを備えていると言っていいのかもしれません。

田中:もうひとつは真剣度、本気度です。時々思うのですが、たとえば荒地を耕す時、鍬で10回はやらなくてはならないのに、3回、5回で「もういいだろう」と終えてしまう人がいますよね。でも、それではダメなのです。私は3回や5回では絶対に信用しない。10回、いや20回、30回やって、あらゆる角度から、自分がやろうとしていることに串を刺していくのです。その執着心の違いが、結果を大きく左右すると思っています。

川島:なるほど、その真剣度において、今のジンズでは田中さんが一等賞なのでしょうか。

田中:今のところは(笑)

川島:そう言い切れるところが、社長である所以なのでしょうね。そんな田中さんにとって、過去の経験の中で、一番大きな失敗は何ですか?

田中:そうですね。恐らくヘラクレスに上場して気を緩めてしまい、利益を大きく落としたことでしょうか。

川島:失敗から気づかされることが多いとおっしゃっていましたが、そこからどんなことを学んだのですか?

田中:上場そのものは、いろいろな運と縁、ある程度の商売センスがあれば、できることなのです。でもその後、継続的に成長させていくのは物凄く難しい。新興企業で、それを実現しているところは、ほんの数パーセントしかないのではないでしょうか。つまり、上場が引退興行になっているということです。

川島:えっ、どういうことですか?

田中:上場することがゴールになってしまう。私もまさにそうでした。業績が悪くなってはじめて、自分が何のために仕事しているのか、我社は何のために存在しているのかについて、本気で考えたのです。

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