糸井:そうやって、あるブランドを認めるというのは、自分の人生にブランドのヒストリーを流し込んじゃうことを意味するんですよ。

川島:そうすると、ヒストリーは、ブランドにとってすごく大事ですよね。先ほど糸井さんは、「5年しか経っていないけれどブランド」という話をされていましたが、老舗が持っているヒストリーの価値って、とても大きいと思うんです。でも、元気のいい老舗は、そのヒストリーに甘んじることなく、新しいことに挑戦している。

糸井:その場合、新しい挑戦や、新しい製品をどんどん出すこともまた、ブランドのヒストリーに組み込まれていて、その部分も素敵だなと思ってくれるお客さんが、また次の時代にブランドを支えていくのでしょうね。

川島:その連続が老舗の歴史を作ってきたようにも思うのです。新しいことへの挑戦を続けていくことって大事だなあと。

糸井:そこでですね、「新しいことへの挑戦を続ける」目的が、「新しくなる」ことじゃないっていうところが、僕は面白いと思います。言い換えれば、「新しくなる」ことは、「生きていく」ための手段なんですね。「ライフ=生命の集合体」としてのブランドにとって、大切なのは、「新しくなる」ことではない。「生き続ける」ことです。「生き続ける」にはどうしたらいいか。それが「新しくあれ」なんです。

川島:「生き続けよう」とすると、結果的に「新しくあれ」に向かうと?

糸井:「新しくあれ」がないと、安定して落ち着いて、止まってしまう。安定は必要なんだけれど、究極の安定は「死」です。絶対そこに行ってはいけない。だから、「新しくあれ」に向かうしかない。この対談で、「偶然がクリエイティブには大切」っていうお話をしたと思いますが、「偶然は神様です」っていう発想が、老舗の人たちにはあると思っています。

川島:「偶然」とは、ルーティンを変えてくれるものとおっしゃっていましたよね。そしてそれは、同じ状態で止まっているのではなく、変わっていくことでもある。

糸井:ルーティンで枠の中の仕事を繰り返していると、考えてもしょうがないことを、ずるずるやっていたりするんですよ。そこには、考え足りないことがたっぷりあるはずなんです。そのあたりを、やわらかく組み立て直すための「偶然」って大事です。

川島:それ、さまざまな経営トップの話を聞いていると痛感します。戦略的に新しいことに挑戦してきたというより、「今、これをやらねば」という必然で判断したら、結果的に成功につながった。そんなケースがとっても多い。

糸井:やっぱり「偶然は神様」なんだなぁ。

オフェンスがなかったら会社は続かない

川島:糸井重里事務所では、さまざまなプロダクトを作り、「ほぼ日」を通して売っている。そこには、凄くたくさん売れるものと、少しだけ売れるものとがあるけれど、それらが共存していける。そんなビジネスをやっていきたいと糸井さんはおっしゃっていて。

 本当にそんなことができるかなぁって思ったんです。だって大半の企業は、どの商品も同じようにたくさん売れること、効率を上げて売上を伸ばすことばかりを目指すじゃないですか。

糸井:工業社会の時代のやり方は、それで良かったので、そのやり方は否定できないんです。ただ、そういう風にきちんと計画通りにやっていくのが、会社にとってのディフェンスだとしますよね。でも次の時代に向けたオフェンスの仕事、トライをする仕事がなかったら、その会社は続かないはずで。

 ちなみに「売れる」ってどういうことだろうと考えてみます。どの商品も百万個売ろうと考えたら大変です。でも、たとえばオリコンのランキングで1位じゃなくって80位だっていい。それで食える商品にすればいいわけです。そうすると、けっこういろんな市場があることに気がつく。

川島:トップテンに入るものもあっていいし、そうでないものもあっていいけれど、「市場」をきちんと見極めて「仕入れ」ていくということですね。

糸井:やっぱりモノそのものの価値だけでなく、込められた思い、醸し出す物語といった「心」の背景も大事ですね。物語がなければ、「何かいいらしいけど何が?」ということで終わってしまいかねない。製品ができてからお客さんの手に渡るまでには、長いドラマがある。大切だと思う物語を、きちんと伝えることって大事だと思うんです。