川島:メーカーの人と話していると、自分がデザインした商品なのに、「これ、別にほしくないな」ってことが、けっこう多いそうなんですね。製品化に向けて、何度も会議を重ねていくうちに、「最新の技術を全部盛り込んで」とか、「ターゲット調査の結果がこうだからこうして」とか、いろいろ言われて、最終的に自分の意図がまったく反映されない商品になってしまって。作っている人が欲しくないものは、きっと誰も欲しくないんじゃないかと思っちゃうんですが。
糸井:それって、今の話で言えば、その商品があったら喜んでくれるであろう人に向き合っていないし、自分が本当の意味で、その商品のお客さんになってもいないですよね。当たり前のことですけど、僕らは、自分が納得できないものを作ったり売ったりしないことにしています。ただ、そこまで突き詰めてやっていますから、「市場」と「仕入先」を確保するのは、物凄くコストのいる仕事なんです。
川島:効率化しづらい領域ですね。
糸井:効率化しちゃだめなんじゃないかな、クリエイティブって仕事は。

川島:た、確かに……。
「偶然」はクリエイティブの神様だ
糸井:実はクリエイティブの一番の供給源は、外にあるわけじゃないんです。
川島:え、どこですか?
糸井:自分の頭の中。頭の中で、デタラメに動き回っている何だかわからないものなんです。そいつは、脳の中で瞬間的に「あ、見えた!」というものだったりする。「面白い」は「共感性」と「意外性」の掛け算だってお話ししましたけど、その「意外性」のひとつに「偶然」があります。「あ、見えた!」っていうのも「偶然」です。
川島:「偶然」が、クリエイティブの供給源になるってことですか。
糸井:「偶然」って神様に出会っているようなものじゃないですか。自分では思いつかないもの。自分の今までのルーティンを変えざるを得ないもの。もっと言えば、ルーティンを変えてくれるもの。ただ、そんな「偶然」を受けとめる自分を、いつもキープできていないと「偶然」には出会えない。
川島:なるほど。
糸井:「あの人は面白いね」と思っていても、長く付き合っていて同じ手口だと気づくと、その面白さに飽きちゃうことだってあります。何か違う刺激が欲しくなるんでしょうね。
川島:ちょっと怖い話ですね。そうなったら糸井さん、どうするんですか? まさかその相手に「飽きた」って言っちゃうわけにもいかないし。
糸井:言わずともわかります。お互いが勘のいい人同士なら。
ちょこちょこ「チェックしない」こと
川島:そもそも勘って何なんでしょう。
糸井:すでにそこにあることを「感じられる」こと。それが勘です。「釣り」で例えると、水温があって、酸素の量があって、ルアーの色があって、天気があって、潮の干満があって、この5つが魚釣りでチェックすべき基本条件です。
でも、その他に、勘定してない要素があったります。たとえば、その時が繁殖のシーズンだったりとか。そうなると、さっきの5つの基本条件をすっ飛ばして、そっちの要素を勘案して、今日はどうやったら釣れるかと、対策を練ることができる。勘が働くって「そういえば繁殖のシーズンだ」と、「すでにそこにあること」に感づくということです。
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