糸井:もちろんです。「あの作家がここでやるのは、どうかなぁ」もあるし、「時間が来るまでもう少し待つかなぁ」とか、仕入れるコンテンツやタイミングについて、僕らもよく考えなくてはならない。そういうことを、ひとつひとつ詰めながら仕入先を決めていく。なぜなら、僕らはクリエイティブで勝負している会社だからです。
川島:仕入先――。そうか、「ほぼ日」はクリエイティブの素を仕入れてきて、「ほぼ日」のクリエイティブにして、勝負する。この場合は、クリエイティブを売る、ということも含めて、ですよね。

糸井:ただ、「これが売れるかなあ。よし頑張って売ろう」じゃだめなんです。「これは売れるぞ、もう売れるに決まっている!」というものを探して、それが本当に売れるかどうか、自分に問いかけ続ける。それが「仕入れ」です。
川島:「売れるに決まってる!」って、お客さんに聞くんですか?「何がほしいですか」って?
糸井:お客さんに直接聞いても答えはないんです。なぜならお客さん自身は、未来の自分が何を欲しいのかわかっていないことが多いから。作り手から提示することが必要です。「これが欲しかったでしょ」って。そのために、自分自身に問いかけて「売れるに決まっている」ものを探し続けるんです。
川島:探せば、見つかるものなんですか?
クリエイティブの仕事は効率化しちゃダメ!
糸井:見つかります。見つけるまで、何が使う人に喜んでもらえるかどうかを考え抜く。お客さんが使って喜んでいる姿が浮かび上がらない「仕入れ」はうまくいかない。たとえば、「ほぼ日」で最大のヒット商品になっている「ほぼ日手帳」だって、毎年毎年改良を続けてきて、今や15代目になっているけれど、この商品も毎年毎年常にクリエイティブの「仕入れ先」についてずっと考え続けて、改良している商品のひとつです。
川島:定番商品の地位に安住しなということですね。
糸井:クリエイティブを仕事にする上で、僕がものすごく大事だと思うのは、クリエイティブの「仕入先」を考えるのと、「市場」を考えることです。ゼロから作るんだけど、最終的には、いちばん競争の激しいところで売ることを前提にして考えないといけない。「見せて売る場所」、商品の売られる環境は物凄く重要だからです。そしてそんな場所は、当然ながら激戦区です。
川島:なるほど。たとえば「ほぼ日手帳」が置かれているLOFTの手帳売り場は、文字通りの大激戦区ですよね。「ほぼ日手帳」のヒット以降、さまざまなアイデア手帳や有名人手帳がどんどん出てきているし。そうそう、今、糸井さんが口にされた「市場」とは、どういう意味ですか?
糸井:僕は「お客さん」という意味で使っています。「お客さん」には、お金を持ってきてくれる人と、喜んでくれる人、2つの意味が含まれます。クリエイティブの「仕入れ」は、「市場=お客さん」に向けたものなんです。
川島:文字面だけとらえると、マーケティングでターゲットとなる顧客を設定せよ、というのはよく言われますよね。でも、糸井さんのおっしゃる「お客さん」って、ちょっと意味が違うような。
糸井:まず、自分がお客さんになったら喜べるかどうか、本気で考えてみる。「人が嬉しいことって、どういうことか」、とにかくこればっかりをしつこく考える。逆の言い方もありますよね。「自分が嬉しいことって、どういうことか」を、しつこく自問自答してみる。僕らの仕事は、突き詰めるとそこに行き着く。そう思ってます。
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