孫泰蔵さんは、東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画したことを皮切りに、世の中の最先端を行くビジネスを次々に手がけてきた方。一度はお会いしたいと思ってきました。
ただ一方、最先端を行く経営トップだけに、近寄りがたいに違いないし、恐らくファッションにあまり興味がないのかもと、勝手な想像を抱いていたのです。 それがあるイベントでご一緒してびっくり。よく似合う装いをされていて、とてもおしゃれ。しかも、お話がわかりやすくて柔らかい。これは是非、お話を聞いてみたいと思ったのです。早速、お願いしたところ、快く引き受けていただきました。
聞いてみたいと思っていたのは、何といっても、AI(人工知能)やロボットの進化が進む中、日本の未来はどうなるのか、否、世界の未来はどうなるのか?大きな質問に対して、孫さんの壮大な構想をうかがうことができました。
(前回の記事「2040年頃、今の仕事の8割くらいが消滅する」から読む)
「もうひとつ、人間じゃないとできない仕事がある」

Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO 1972年生まれ。佐賀県出身。東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画。その後、インターネットのコンテンツ制作、サービス運営をサポートする会社を興す。2002年、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社を設立、デジタルエンターテインメントの世界で成功をおさめる。その後も、様々なベンチャーの創業や海外企業との大型JVなど、ある時は創業者、ある時は経営陣の一人として、一貫してべ ンチャービジネスに従事した後、2009年に「2030年までにアジア版シリコンバレーのベンチャー生態系をつくる」として、スタートアップのシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを設立。2013年、単なる出資にとどまらない総合的なスタートアップ支援に加え、自らも事業創造を行うMistletoe株式会社を創業。21世紀の課題を解決し、世の中に大きなインパクトを与えるようなイノベーションを起こす活動を国内外で本格的に開始、ベンチャーの活躍が、豊かな社会創造につながることを目指している。(写真:鈴木 愛子、以下同)
川島:「創造」そのものは、やはり人間の仕事である、と。逆にいうと、人間の仕事はクリエイティブに向かわざるを得ないというお話ですが、みんながクリエイティブになるって、できるんでしょうか?
孫:ですよね。クリエイティブワーク、創造的な仕事以外に、もうひとつ、人間じゃないとできない仕事ってあるんです。それは、「人づきあい」。ヒューマンタッチな仕事は、むしろこれから大きな価値を持つようになります。たとえば、保険の外交員のお仕事。
川島:保険の外交員?
孫:保険の外交員って、多くの場合、女性がやってますよね。彼女たちは保険を売ってますけど、それだけじゃなくて、お客さんに対していろいろな世話焼きもするという話を耳にします。人生のささやかな不安とか悩みといった領域で、御用聞きみたいな仕事をやっていたりします。こういう「人づきあい」の仕事はAIにはできません。
川島:なるほど!たとえばスナックのママなんかもそうですね。
孫:そうそう。スナックのママやバーのマスターみたいな仕事は、僕たちが人間であり続ける限り、絶対に残るんです。僕ら自身が、そういう「人づきあい」を求めていますから。
川島:AIができることとできないことの境界線はどこにあるんですか?
孫:人間とAIとの差は何か。それは「欲望」の有無です。AIそのものには、欲望というものがありません。偉くなりたいとか、出世したいとか、お金が欲しいとか。もっと言うと、暑いとか寒いとか。なぜかというと、身体というものがないからです。
川島:心=感情もないわけですね。
孫:ありません。欲望がない、ということは、AIには人間の“ニーズ”というものがわからない。だからクリエイティブ=創造的にはなれないんです。つまり、クリエイティブの源にあるのは“ニーズ” 。こういうのが欲しいとか困っているという“ニーズ”を解決するのがクリエイティブの果たす役割なんです。
川島:ピーター・ドラッカーが「顧客の創造」という言葉を残しています。あらゆる仕事は、顧客を創ることである、と。この場合の「顧客」とは、人々の欲望やニーズのことですよね。
AIそのものは、顧客の創造ができない。保険の外交員は、お客さんのニーズがわかっていて、お世話焼きとして働いている。スナックのママも、お客さんのニーズがわかっていて、話を聞いて相談にのっている。彼女たちの仕事は、「顧客の創造」を繰り返している、ともいえる。
孫:さらに、人間相手の仕事の場合、共感力ということも大事ですね。
川島:共感力のベースにあるのは、人の感情だから、AIやロボットには、臨機応変に対応できないわけですね。
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