創造的な仕事だけが存続できる

孫:しかも、こうしたフル・オートメーションで製造できるのは、安くて単純な大量生産品に限りません。すでにスマートフォンの70%以上が、ロボットで作られているといいます。逆に精密過ぎて人間が手作業では作れないものこそ、ロボットの出番、というケースも増えていきます。だから、大半のモノ作りの仕事はロボットに取って代わられ、その分野で秀でた1社、2社による寡占状態が起きる可能性が大きいんです。
川島:世の中、失業者がどっと増えるということになっちゃいますね。
孫:その可能性はあると思います。失業には2つあって、構造的な失業と摩擦的な失業とがあります。
構造的な失業とは、市場や産業そのものが消滅したりして労働者が完全に不要になって失業してしまうこと。シンギュラリティに関連して起きるのは、決して構造的失業ではないのですが、今の仕事がなくなるかわりに新しい仕事をこなせる人が求められているにもかかわらず、労働者が新しい仕事にすっと対応することができなくて再就職に時間がかかってしまう摩擦的失業と呼ばれるものです。つまり、時代が変わるときに、それに対応できない失業のことですね。
川島:産業革命のときに、馬車から自動車への移行が10年くらいの間に起こりました。あのときで言えば、ベテランの馬車の御者の多くが、馬車の需要がなくなって、失業する。その事態に際して、新しく台頭した自動車の運転手になるか、あるいはまったく別の仕事につくかなければならない。それができないと「摩擦的失業」となってしまうわけですね。
孫:はい。現実には、こうした産業の大変革というのは、あまりに変化が大きすぎて、多くの人が時代に対応できなくなります。御者に限らず馬車産業の人たちは、どうしていいかわからなかった。これから起こる大変化についても、この摩擦的失業が増える可能性は大だと思っています。
川島:今ある仕事の8割がなくなっちゃうわけだから、失業者がどっと増えちゃう。
孫:7割という人もいれば、9割という人もいますが、いずれにせよ、今の赤ちゃんたちが社会人になるころ、2030年から2040年にかけては、今ある仕事のほとんどがなくなってしまうでしょう。これから雇用がなくなり、失業した人たちが巷にあふれる。日本でも世界でも最大の問題になっていくわけです。
川島:どうなっていくのですか?
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