「ハーレーダビッドソン」のようなコミュニティブランド

川島:理念を本来的な意味で社内に浸透させるって、物凄く難しいことです。スノーピークはどうやってそれを実践しているのですか。

山井:今の理念は1989年に定めたもので、うちの会社が、過去に何度か、厳しい状況を越えてこられたのも、目指すべき方向が明確で、それぞれの社員が同じベクトルで働けたからと思っています。今でも、あらゆる選択の場面で、この理念にそぐう行動になっているのかどうかを確認した上で、仕事を進めるようにしています。

川島:たとえばどういう風にですか?

山井:AとBという選択肢があった時、もしAがスノーピークウェイに合致するのであればAを選ぶ。BだったらBを選ぶということです。ただ実際は、AもBもスノーピークウェイでない場合もあって(笑) その場合は、Cを考えてくださいということになります。

川島:山井さん、厳しい社長なんだろうなぁって思います。でも、方向を差し示すことは、社長の果たす大事な役割ですから。海外拠点でも、理念は同様に浸透しているのでしょうか。

山井:うちの海外拠点は、日本人も赴任していますが、ほぼ現地のメンバーに任せているのです。それも、スノーピークウェイがあるからできること。日本語の真意をもとに、よくよく吟味して、現地の言葉に翻訳したものを、現地の社員に伝えているのです。

川島:そこまで理念にこだわって使い続けると、やはり企業として強いです。そしてそれがブランドになっていくのかも。
ところで、この連載に登場する皆さんに定義してもらっているのですが、山井さんにとってブランドの意味とは何なのでしょうか。

山井:スノーピークは、コミュニティブランドととらえています。「スノーピーカー」と呼ばれているファンの方々を含め、人と人が結びついてコミュニティになっていく。スノーピークのそういう企業のあり方が、ブランドを形作っているととらえているのです。たとえば「ハーレーダビッドソン」が、ファン同志でツーリングを楽しむように、「スノーピーク」の熱狂的なファンは「スノーピーカー」と呼ばれてもいて、完全にコミュニティを作っているのです。

川島:そうやって、ブランドに濃いファンがついてくると、そこに入っていない人にとっては、ちょっと近寄りづらい側面も出てくると思うのですが。

山井:そのために「手ぶらプラン」や「グランピング」を企画して、コミュニティを広げていきたいと考えています。

川島:そしてファンが増えていく。山井さん、どうしたら、そういうブランド作りができるのでしょうか。

山井:支えている要素はいろいろあると思っています。独自性があって品質の良い製品を作り続けてきたことにもあるでしょうし、ギアとアパレルの双方を提案していることにもあるでしょうし、地方自治体との取り組みや「グランピング」など、さまざまな体験を提供してきたことにもあるでしょう。それらが重なっていった結果、ブランドとなっているのだと思います。でもそれも、今、振り返ってみるとそうなってきたということであって、すべてのことを、最初から計画してきたわけでもないのです。あくまで理念である「スノーピークウェイ」を守ってきたから、そして次々と新しいことをやってきたからと言えるのかもしれません。

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