山井:今のところ、アメリカではポートランドとニューヨークの2カ所に、スノーピークの直営店を構えているのですが、自分ではまだ中途半端と思っていて。世界の300万人くらいの都市に出店できる、プロトタイプ的なショップを作りたいと考えているのです。
世界で唯一無二の価値づくりを
川島:そこで提案するものは何になるのでしょうか。今のスノーピークはもはや、モノを売っているというよりは、自然に触れる体験を売っているのでは?
山井:まずは、スノーピークの思想である「自然の中で過ごすことによって人間性を取り戻す」ことを、きちんと伝えることです。そのために必要なギアとアパレルを揃えて、ブランドとしての世界観を表現しなければならないのです。
川島:それは、今の商品ラインナップをきちんと見せることとは違うのですか。
山井:それだけではダメでしょうね。既存の店でやっていることは、まだ「ライフスタイル」の提案であって、「ライフバリュー」まで行っていないのです。
川島:「ライフスタイル」と「ライフバリュー」ってどう違うのですか?
山井:うちが最初に「ライフスタイル」という言葉を使ったのは1988年のことで、オートキャンプ用品を始めるにあたって、「アウトドア ライフスタイル クリエイター」という言葉を使ったのです。当時は「ライフスタイル」という概念を、商品や店で表現すること自体が新しかったのですが、今や「ライフスタイル」という言葉が、あらゆる場面に登場するようになっています。
川島:服でも、雑貨でも、食の世界でも「ライフスタイル」です。ただ、実体はどうかというと、割合とバラバラしている気がしています。服の店に雑貨が置いてあれば「ライフスタイル」とか、雑貨の店の一画でカフェを運営していれば「ライフスタイル」といった具合で、本来的な意味での「ライフスタイル」になっていない気がするのです。それで「ライフバリュー」とはどういう意味なのですか。
山井:言葉通りで、人生の価値そのものです。たとえば「グランピング」に行ったことで、自分の人生がその前より幸せになった、価値が上がったという感覚。スノーピークは、そういう時空間を、きちんと提案する企業になっていこうとしているのです。
川島:そうするとやはり、モノより体験の価値を売っていくということですね。
山井:そうです。もちろん、それを実現するためのツールとしてのギアやアパレルは欠かせないので、モノ作りも徹底して続けていきます。ただ、そこだけにとどまらず、本来的な意味で「ライフバリュー」を提供できたら、他にない企業になれると思っています。「自然の中で過ごすことによって人間性を取り戻す」というスノーピークの土俵で勝負している企業は、他にあまりないと思うのです。
川島:企業理念である「スノーピークウェイ」を読むと、「私達スノーピークは、一人一人の個性が最も重要であると自覚し、同じ目標を共有する真の信頼で力を合わせ、自然指向のライフスタイルを提案し、実現するリーディングカンパニーをつくり上げよう」と謳っています。「ライフバリュー」は当然のことながら、そことつながっていますね。
山井:ある意味、ナチュラルなラグジュアリーとも言えるものを目指しているのがうちの会社。謳っている理念も精神的なことですが、割合と社内に浸透しているのです。

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