川島:なるほど、色やかたちといった表層的なデザインではなく、内部構造まで深く理解して、本来的な意味での深いデザインができる。しかもそこに、スノーピークらしさを入れ込めるとなると、外部委託するのが難しいこと、よくわかります。その意味では、アップルやグーグルと似ていますね。

山井:そうかもしれません。デザイナーとしての技量が高くて、製造技術についての知見やネットワークも持っている。そして、ユーザースキルが高いことも必須で、それらをオールインワンでできるのが、スノーピークのデザイナーと考えています。だからうちは、美大のプロダクトデザインで優秀な成績を収めた人材を採って、社内デザイナーとして育成しているのです。

 スノーピークでは「永久保証の価値」づけをしており、機能が損なわれ、それが製造上の欠陥であれば、無償で修理あるいは交換するというポリシーを貫いてきました。そのイメージがすっかり定着して、スノーピークのマークが付いていると、他のメーカーなら許してもらえることも、クレームになっているのではと勘ぐってしまうくらいです。うちの開発担当者は、ひたすらテストを繰り返して、「永久保証の価値」を確かめなければなりません。地道で困難な仕事ですが、ここを守り抜いてきたからこそ、お客さんの信用が築けてきてもいるのです。

川島:社内デザイナーが、外部の著名デザイナーの言うことを聞いて学ぶのではなく、自ら工場に足を運んで職人さんとやりとりしながら開発し、自身を鍛えていく。しかも、そのハードルがえらく高いわけですから、良い人材が育ち、企業の血となり肉となっているのでしょうね。

「HOME⇄TENT」を掲げたアパレル展開

川島:スノーピークはアパレルも精力的に手がけていて、原宿には路面店を、その他「新宿ルミネ」や「丸の内KITTE」などにファッション主体のストアを出しています。

山井:ライフスタイルを語るからには、ギアだけでなくアパレルも必須と考えてのことです。「日本の文化と感性を大切に、新潟発で世界に向けて発信していきたい」というスノーピークの精神を、そのまま反映したアパレルです。

川島:新潟は、もともとアパレルの産地としては、日本一の規模を誇っていたところ。昨今はアジアに拠点を奪われて、倒産する企業が後を絶たない状況ですが。

山井:新潟県燕三条という地元が持っている強みをもとに、「HOME⇄TENT」を掲げ、「田舎に似合う服をつくろう。都会のモードに乗らない服を。TPOで着替えたりしない服を。」を謳って始めたもの。わざわざこう言ったのは、都会と田舎、男と女、年代や性別で、区別がない生き方を象徴する存在としてのファッションがあっていいのではと考えてのことです。

次ページ 建築家の隈研吾さんと組んだ「モバイルハウス“住箱”」