新潟県燕三条を拠点に、アウトドアを軸としたライフスタイル提案をしているスノーピークの代表取締役社長を務める山井太さんとは、同郷ということもあって、長いご縁を得てきた。本社社屋の建築物の斬新さ、展開されているアウトドア用品やアパレルのかっこよさに加え、ここ数年は、ラグジュアリーな「グランピング」や、建築家の隈研吾さんと作った「モバイルハウス“住箱”」が脚光を浴びている。
山井さんは、大柄で豪放磊落、圧倒的なワンマン経営者に見えて、実はそうでもない――自分の志や夢を語り始めると止まらなくなる。が、話の端々に、気後れやはにかみが見え隠れしている。雪国で生まれ育った性分からか、一度決めたら、辛抱強く思いを遂げようと努めるが、少しだけ引っ込み思案――新潟県民らしさに共感を覚える。 山井さんの、そしてスノーピークのかっこよさの源はどこにあるのか。新潟という地方でユニークなブランドを作り上げ、世界に向けて発信している理由などなど、改めて話を聞いた。

アウトドアにおける、エルメスのような存在に
川島:前回は、もともと金物問屋からスタートしたスノーピークが、現在のオートキャンプ文化を創ったものの、キャンプブームの終焉で、売上低迷が続くようになった。それで改めて、お客の声に耳を傾け、流通戦略を抜本的に見直し、改革したお話をうかがいました。大きな危機は、トップの判断次第で、企業をポジティブな方向に導くのだと、勉強になりました。
山井:それはちょっとほめ過ぎです(笑)。後から見ると、結果的にそうなっているだけであって、判断する時は、イチかバチかの勘みたいなところ、あると思います。
川島:でも、そこを見分けられるかどうかが、「かっこいい経営者」と「ダサい経営者」を分けている気がします。そして会社を立て直した山井さんは、さらに打って出る道を選ぶ。燕三条地域に本社屋を建てるとともに、広大なオートキャンプ場を作ったのですね。
山井:2011年に、地元で5万坪の土地を購入し、社屋と工場、キャンプ場を作りました。
現在、新しい物流拠点ができて、工場は移転しました。本社屋は、地下2階、地上1階の3層構造で、直営店も併設しています。
川島:行ってみてびっくりしました。凄い傾斜地に建っているのですが、大胆な直線使いが特徴的。豪快さとモダンが同居していて、とにかくかっこいいんです。そして、そこを取り巻くように、自然がいっぱいのキャンプ場が広がっているのもいいですね。
山井:日本全国、いや、世界に向けてスノーピークが発展していくためには、まず地元で、やるべきことをきちんとやらないといけないと考えたのです。あのオートキャンプ場には、うちの熟練したスタッフによるキャンプ指導や、地元の業者によるさまざまなアクティビティーの提供も行っています。でも振り返ると、あれも自社の体力を大きく超える投資を、思い切ってやってしまった感もあります。今だったら、恐らく周囲に止められているでしょうね(笑)
川島:でもあれがなければ、今のスノーピークのイメージも違っていたと思います。やっぱり、山井さんの勘が効いているのでしょうね。
山井:「変えていくこと」も大事ですが、一方で「永久保証の価値」を追求し続けたのも良かったと思います。他にない独自性の強い商品の開発を、地元の技術を活かしてどんどん進め、機能と品質を進化させることに力を注ぎました。自社のモノ作りチームが徹底してこだわって、ひとつひとつ仮説と検証を繰り返して作り続けたのです。
川島:思い切って変えるところと、徹底してこだわって変えないところ。その線引きをするのも社長の役割です。山井さんのこだわりといえば、以前におしゃべりしたとき、「アウトドアにおける、エルメスのような存在感のあるブランドになりたい」と言っていたのをよく覚えています。大きなことを言う人だなぁって(笑)。そのくだりで「グランピング」のことも語っていて、あれから3~4年経つと思いますが、最近、カタチになってきていましたね。

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