「中高校生に日本の未来を見た」

 当日のプログラムがすべて終了した後、すっかり打ち解けた学生たちは「打ち上げに行こう」と誰ともなく呼びかけあい、街に繰り出していった。ソフトドリンク片手で大騒ぎをしたのだろうか。

 一方、その場にいた大人たち全員が感じたのは「日本の将来は明るい」ということだった。

 「見せていただいて本当に良かったです、日本の未来が顔を出していたと思います。その未来が引っ込んでしまわないように、そしてまだ閉じ込められている未来も引っ張り出せるよう、あらゆることをやりたいですね」

 そう語ったのは「世界で戦えるグローバルエネルギー企業を10年間でつくる」というビジョンを掲げるJERAで、グローバル推進室をリードする緒方博行氏だ。JERAは東京電力と中部電力の燃料事業と海外発電事業を継承した企業である。

 「我々も、将来の日本を背負う今の中高生に、日本のエネルギー、世界のエネルギーをどうしていくか、真剣に考えてもらう場を作りたいと思っています。本当に参考になりました」。こういう思いを持つ緒方氏は今回のプログラムの見学に訪れていた。

 しばらく経って、参加した中高生が記入したアンケート結果が、プロボノメンバーに届いた。学生たちは異口同音に「すごく楽しかった」と伝えてきた。今回の機会によって「仕事」というものに俄然興味が湧いてきたらしい。「GCAの人にもっと話を聞いてみたい」、「色々な職業のプロに会ってみたい」。そんな声がほとんどだった。

 今回のプロボノ活動の発起人となったGCA1年目の杉原祐紀は次のように語る。「高校生に未来の自分たちの夢の選択肢を広げてあげられたとしたら嬉しいですね。M&Aそのものを知ってもらうというより、M&Aを題材に普段の教育でなかなか教えきれないような、リアルな社会の雰囲気、世界の中での日本の状況、企業の状況などを、いつもとは違う角度から彼らに伝えたかったので」。

 当日の夜、杉原のところに、モバイル業界の審査員長を務めた平川からメールが届いた。「高校生の純粋な意見は、自分の考えを新たにするきっかけとなりました。次回があるなら、ぜひまた協力したい」。この短い文面には、GCAのプロボノメンバーたちの思いが凝縮されていた。協力したメンバーの声を拾ってみよう。

 「高校生にM&Aを説明するにあたって、私達が日々行っている仕事の意義、すなわち社会にどのような価値を提供しているのかを告げる必要がありました。今回、自分で改めてそれを考えてみて、逆に大切なことを再確認させてもらいました」(鈴木道夫エグゼクティブディレクター)。

 「負けたことを純粋に悔しがっており、終わった後に『次に生かしたいのでどこがダメだったか教えて欲しい』と聞かれ、驚きました。純粋な気持ちや向上心の大切さを改めて感じさせられました」(GCA4年目の北川龍之介)。

 中高生から刺激を受ける一方、プロボノの協力者たちは皆、ゲームに夢中になっていたと杉原は言う。「石川さんのそばを通ると、笑顔で『すっごい楽しい!!』と私に叫ぶんですよ、本当に中高生とのコラボに熱中してました」。普段は“理系女子かつクールビューティ”の石川の意外な一面が印象に残ったそうだ。

 杉原と共に発起人となった田村聡は当初、「多忙なみんながこういう活動に興味を持ってくれるだろうか」と不安だった。だが、希望者を募ってみたところ、あっと言う間に20名近くが手を挙げた。

「大人をなめんじゃねーぞ」

 以上が中高校生に向けたプロボノ活動の一部始終である。最後に、この場を企画したテラスの代表者の感想を紹介しよう。

 「毎回感嘆するのは15歳から18歳の彼ら彼女らの発想力、思考力、コミュニケーション力、突破力の素晴らしさ。これは首都圏か地方、公立か私立、あるいは偏差値、一切関係ない。それだけの力を備えている彼らが大人になるまでに、どれだけの機会を我々大人が提供できるか。そこに未来はかかっています。彼らの能力、夢、希望を次に繋げるためにも、我々大人の本気、実行力を彼らに見せないといかんです。大人をなめんじゃねーぞ、と」(テラス代表の中鉢慎氏)。

 中鉢氏は大学卒業後、外資系グローバル企業に在籍し、その後、次世代教育プログラムを学校や団体に提供するテラスを起業した。

 「10代の勢いってホントすごい。M&Aのエの字も知らなかったのに1時間後には現役で活躍するプロを交えてM&Aについて議論を戦わせられる。彼らはただ知らないだけ・やったことがないだけで、水を吸わせればいくらでも吸収するスポンジのように、その機会さえあればあとは勝手に理解を深め、たちまち高みへ飛躍して行ってくれます。そんな姿を間近で見られるのだから、その機会をいくらでも作り出していきたいに決まってます」(テラスの共同経営者である長谷悠滋氏)。

 もっともっと日本の中高生が本気になるような場を作り出さねば。大人の責任は重い。