「危機管理がなっていません」

 いい調子で買収先に向けてプレゼンを進めていると横槍が入る。

 「確かにこの会社はその業界にいるが、提供された資料を見る限り、そうした製品まで作っているとはどこにも書いてない」

 提案プレゼンをしているチームと同じ業界に属し、競合関係にあるチーム(会社)の女子(役員)からの揺さぶりだ。

 「その提案はおかしいです。持分である全財産をM&Aに費やしている。企業買収はどんなにうまくやっても100%成功するものではない。危機管理がなっていないと思う」

 競合チームの提案を疑問視した意見を述べて、オーナーの心を揺らそうとするライバルもいる。

 GCA4年目の松村卓はM&Aゲームをめぐる高校生のやり取りについてこう振り返った。「『一部出資で』なんて言ってくる。提示されたルールの中だけで考えるのでなく、ゲームの目的を考え、ルールを飛び越える発想ができる。大人顔負けです」。

 リアリティをふんだんに仕込んだはずのM&Aゲームだったが、それを超えるリアリティで高校生たちは提案してきた。

「売られる会社の社員の人の気持ちを考えなければ」

 参加したプロボノメンバーたちがもっとも感銘を受け、かつ頼もしいと思ったのは、中高生がM&Aをマネーゲームとしてとらえていないことだった。

 「議論の最中で一人の生徒が『売られる会社にとってどんな良いことがあるのか、売られる側の人がどう感じるか、そこを考えないと提案が響かないと思う』と言ったのを聞いて、本当に驚きました」。GCA7年目の村岡和彦はこう語った。

 「社会人になると合意形成のために落としどころを探ろうとします。だが彼らはまったく譲らない。徹底的に議論していました。その姿勢を我々も学ばないと」

 中高生の提案や議論はまだまだ続く。

 「自分たちのメリットもあるが、買収された側の社員の人々のメリットを強調していきたい」

 「この会社の企業理念は当社と親和性がある。買収される側の社員も企業文化の違いに戸惑わないはず」

 買収後のシナジー享受には買収された側のモチベーションが重要。M&A成功の要諦をきちんと押さえている。

「いよいよ審査だ」

 大騒ぎのプレゼンが一通り終った。それぞれの事業ごとに優勝チームが決定する。

 まず子供服業界。審査員長の村岡が優勝チームを発表する。会場にどよめきが走る。

 「え、マジで。やった」

 数時間前に知り合いになったばかりのメンバー同士でハイタッチが始まる。ちょっとだけ不満顔のライバル会社チーム。しかし、すぐに相手をたたえる拍手。

 「優勝チームは買収後の事業の成長に考慮がありました。これはM&Aの成功に絶対に必要な要素です。よくそれがわかりましたね」。村岡の総評に見学していた付き添いの先生や父兄らが大きく頷いた。

 続いてモバイル業界。審査員長の平川俊輔から優勝チームに意外な選定理由が告げられた。

 「優勝チームは色々な人が自分の特性に合わせて話をした。論理的な人、全体感のある人、ハートで勝負する人。チームが有機的に結合していた。そんな皆さんのチームワークを見て、もし自分が買収先のオーナーだったら信頼できると思いました」

 化粧品業界の審査員長の小林洋平のコメントにも会場の誰もが笑顔を見せた。

 「優勝チームは、最初のビジネスゲームで経験した自社の経緯を振り返り、その経験を踏まえたうえで買収計画を提案していました。実際のM&Aの現場でも、それぞれの企業に、その企業なりの歴史やストーリーがあります」