興奮のメインイベント「M&Aシミュレーション」

 「さっきのビジネスゲームで、いろいろな施策を打ったけれど、世界がどんどん変化していく中、あのままで生き残れるかな」。岡田が皆に尋ねる。

 「規模を大きくするために、新しい市場に参入したり、新しい技術を会得したりする。効率化も必要。やることが沢山あるけれど、時間がないよね」

 ビジネスゲームの会社運営を終えたばかりの若き経営者たちはまた頷く。

 いよいよM&Aの出番だ。プロボノに協力したGCA社員たちが仕事の合間に手作りしたシミュレーションゲームが登場。各チームにリストが渡される。売却を検討している企業の一覧とその情報。各チームは自社の企業価値を最大にする戦略を考え、買収すべき企業を選定し、相手先の株主が納得して売却してくれるように提案する。

 ビジネスゲーム同様、チームはモバイル業界、子供服業界、化粧品業界に分かれる。各業界に三社ずつ、つまりそれぞれの会社に競合が二社いる設定だ。

 M&Aゲームのシナリオの練り上げやアジェンダづくりを支援した阿部美紀子はGCAでマーケティングを担当する二児の母だ。今回のゲームにこらした工夫を次のように語った。

 「M&Aの実際の現場では、時間の概念があり、時間の経過によって状況が刻々と変化していきます。交渉の間にさまざまな人の感情が入り交じった複雑な現場がある。こうした社会の複雑さを中高校生にいかに伝えるか、そこが最も悩ましかったですね」

 ゲームを始めるにあたり、GCAの若手が各社(チーム)に混ざり、ちょっと困惑気味の中高生たちにM&Aを説明していく。

 「それってどういうこと?」「え、なんで?」

 中高生から質問が出始める。そのうち一人が何かに気づき、仲間に説明する。徐々に活発な議論になっていく。

 「元手の資金が不足している場合、借金してもいいですか」

 ある高校生が大声で、歩き回っていた岡田に尋ねる。主催者側にとって想定外の質問だった。一瞬慌てた岡田だったが即答する。

 「いや、今回は借金無しでいきましょう。ただし、現実には有効な手の一つです。出資してくれるところへの説明が大きなポイントになります」

 中高校生がM&A戦略を立案する様子をGCAの山口絵理はこう語った。「化粧品会社を経営するチームを担当しました。ある男子生徒が『化粧品筆には馬の毛が使われていると聞いたことがある。例えばその馬を使って何か新しいことが考えられないかなぁ』とコメントしていました。情報に対する感度が高く、年齢や男女の差をまったく感じさせませんでした」。

「もっといいアイデアがあるはず、でも時間がない」

 「買収先が決まったら提案書にまとめていってください」

 議論が盛り上がっている中、突如、岡田の声が響く。

 「早くしないと時間切れでプレゼンの席につけなくなっちゃうよ」

 中高生経営者たちはテーブルの上のマジックを手に取り、模造紙に書き込み始める。買収の目的、方法、アピールポイント。

 「もっといいアイデアがあるはず、たとえば…、ああ、時間がない」

 提案書作成の締め切り時間を過ぎても議論は尽きない。いや、エンジンがかかり、まさにピークを迎えている。

 岡田は各チームに加わっていたプロボノメンバーに話を聞く。ほぼ全員から「かなりよい議論になっている。今、切ったらもったいないかな」との声。岡田は判断した。

 「もう15分延長します」。

 15分はあっという間に過ぎ、いよいよ、オーナーへの買収提案が始まった。買収先のオーナーは岡田が務め、役員は他業界を担当しているプロボノメンバーたち。模造紙の提案書が提示され、中高生たちがプレゼンテーションをする。

 「よい製品があるのにパッケージがお洒落でない。これじゃ売れない。デザイン会社を買収すべきです」。

 「この事業は日本だけではジリ貧です。本当は海外に行くべきです。ところが拠点は日本だけ。だからこそ当社と組む必要があります」

 「デザイナーたちが新しい会社の文化に馴染めない危険性があります。たぶん窮屈で辞めてしまうと思います。むしろ、無理に買収せずに、出資して影響力を持つのがいいと判断しました」。

 いったい、いつ覚えたのか、中高生たちは提案内容もさることながら、口上までがそれっぽい。

 「今回の4社すべてを買収したい。どの企業もビジネスモデルを見ると当社と関連があり、うまくつなげることができれば、面白いことができる。ただ、そのうち1社は、他社と協業している。もし、それが獲得できない場合には」

 このようにポートフォリオを考え、プランB、プランCまで用意したチームもあった。