中高生45人が、ある企業のセミナールームに集結した。3カ月ほど前の土曜日。場所は丸の内。机の上にはミネラルウォーターとお菓子。彼ら彼女らが熱心に説明しているのは「買収提案」だ。

 「もし『My Tube』社の動画配信力を当社が使えれば、既存のモバイルビジネスにとって大きなシナジーが期待できます」

 「今回、当社としては『楽ゾン』社の持つ顧客データの有用性に着目しています。ただし、いきなり御社を買収するのではなく、このビジネスにだけに出資させてください。まず始めてみて、一緒にやっていく中で、お互いの信頼を深めたいです」

 「当社と組めば、今いる社員の方々にこれまで以上に活躍していただき、幸せになってもらえる。その自信があります」

 この日のために準備された「M&Aゲーム」のワンシーンだ。自分たちが架空の企業の役員となり、成長戦略を描き、買収先企業を探し、シナジー効果を議論する。買収の提案書は模造紙。紙を張り出し、買収先の候補に対して提案する。

 参加した45人は、私立国際基督教大学高等学校(ICU高校)、私立聖学院高等学校、私立サレジオ学院高等学校、国立筑波大学附属坂戸高等学校、東京都立国際高等学校、川崎市立高津中学校の中学3年生から高校3年生。

 45人は5人ずつチームに別れる。各チームが架空の会社となり、経営とM&Aに取り組む。架空の会社が9社できたが、役員(学生)たちの年齢も在籍校もバラバラ、お互いが初めてこの場で知り合った。この年代の年齢差は大人のそれよりも相当な違いがあるはずだが、やりにくい様子はまったくない。

 各チームが自分で命名した社名は「まっちゃ」、「たまご」、「アミーゴ」、「ダイバーシティ」、「いなかもの」、「女っ気なし」、「ジーザス」、「関東レインボー」、「ゴキのG」。いずれもチームメンバーの何らかの特徴を表したものらしい。例えばチーム全員がキリスト教系学校の生徒だから「ジーザス社」と名乗る。このあたりは、どこかまだあどけない。

プロボノにより実現したM&Aを通じた社会勉強

 この「M&Aを通じた社会勉強」を支えるために9社(9チーム)には大人がアドバイザーとして就いた。大人のほうは架空ではなく本物。独立系M&Aアドバイザリー大手、GCAに所属する若手である。

 今回の活動は、M&Aの世界にいる彼ら彼女らが休日に自分たちの専門知識や能力を社会のために役立てようというもの。プロフェッショナルのボランティア活動は欧米では「プロボノ」と呼ばれ、古くからある。例えば弁護士などが休日に、経済的な理由でサービスを受けられない人々の相談に無料で乗ったりする。

 イベントそれ自体は、次世代教育プログラムを企画、提供するテラスが主催した。テラスは文部科学省が取り組むスーパーグローバルハイスクール指定校向けの合宿プログラム「GLBC(グローバルリーダーシップブートキャンプ)」を提供している。今回のイベントはGLBCを一日で体験する「GLBCキャラバン・東京」というもので、そこにGCAが協力した。

 GCAは筆者の勤務先であるのだが、中高校生のポテンシャルとそこから刺激を受け、仕事でM&Aを手がけている時とは異なる姿を見せた若手の様子に、連載のテーマである「熱狂わくわく経営」のヒントがあると思ったので、ここで紹介させていただきたい。

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