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放棄地の増大という危機

 一方、豊富な経営資源を持つ農協が正面から営農に取り組めば、「躍進する法人」と言われてきた勢力の経営環境も変化する。先進的な農業経営者が「自分たちのやっていることは、他の業界では当たり前」と話すのをよく聞いた。だが農協を含め、「当然のこと」をみんなやるようになれば、状況は一変する。今後は独立系の法人と農協が手を組むケースが増えるだろう。

 問題は、既存の農業のイメージを一新する農業法人や農協が続々と登場しているにも関わらず、放棄地の増大という危機に歯止めがかかっていない点にある。生産量が減れば、天候不順が収量に及ぼす影響も増幅される。この間隙をついて存在感を増しつつあるのが、植物工場だ。

 ベンチャーのスプレッド(京都市)や上場企業のバイテックホールディングスのように、一工場当たりの収量を飛躍的に増やすことで、天候に左右されない強みをフルに発揮する企業が登場した。農業界にはなお工場生産の可能性を疑問視する声が少なくないが、今後影響力が高まるのは確実だ。

スーパーへの販売に成功したスプレッドの植物工場

 ここまでは、企業的な農業の話だ。だが取材を重ねるうち、農政や農業界があまり重視してこなかった分野に注目するようになった。市民農園やイベント農園など、農地のサービス業的な利用だ。理解を深めるうえで、多くの示唆を与えてくれたのが、東京都国立市でイベント農園「くにたち はたけんぼ」を運営する小野淳さんだ。さらに、市民農園を展開しているアグリメディア(東京都新宿区)への取材を通し、将来の可能性を確信した。

増産がコメの主産地の使命と考えるJA秋田ふるさとの小田嶋契さん
忍者イベントにわく「くにたち はたけんぼ」

 田畑をサービス業的に使う意義は2つある。1つは、日本は海外から輸入される農産物があふれかえっており、食品価格にはつねに強い下方圧力がかかっている点だ。ニッチなうちは付加価値がつくが、みなが同じことをやればその瞬間にコモディティーになる。これに対し、市民農園やイベント農園は農産物だけを切り出して商品にするのではなく、それを含めて体験を売って対価を得る。都市近郊の農地の保全にも大いに役立つ。