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 生産という側面でもう一人印象深いのが、茨城県龍ケ崎市で大規模稲作を営む横田修一さんだ。横田さんはこれまで「100ヘクタールを田植機とコンバイン1台でこなす効率経営」という文脈で紹介されることが多かった。だが筆者の取材で、横田さんは「もうその話はよしませんか」と語った。

伝統の「結」と新技術の融合を目指す横田修一さん

 複数の品種の稲を作ることで、機械を長期間使い、効率を高めるという、みずから築きた強みを否定しているわけではない。だが、それだけで経営が成り立つわけではないというのが横田さんの主張だ。とくに横田農場のように年々、田んぼが増えていくケースでは、特定の技術やシステム、仕組みを導入すれば、あとはその延長で規模拡大がうまくいくわけではない。新たな課題が次々に浮上する。

力説した「結」の復活

 そこで横田さんが力説したのが、農村にかつてあった「結(ゆい)」の復活だ。指揮命令系統と役割がはっきりした工場型のやり方ではなく、天候や作物の状況など様々な変化に対応し、各自がやるべきことを柔軟に判断して栽培を成功に導く。収量コンバインや自動給水機など新しいシステムも活用しているが、それも「人の成長」があってはじめて成り立つと考える。

 2人を含め、多くの法人経営者の話を聞くことで、農業界を覆う閉塞感を打破するエネルギーを感じることができた。彼らの多くに共通する特徴は、農協を通さず、自分の力で販路を開拓していることだ。こうした努力を通じ、農家はたんなる作業者から経営者に脱皮する――。

 というふうな記事をたくさん書いているうち、ふと疑問に思い始めたことがある。そうした見方はすべて、「農協を通さないこと」をアプリオリに肯定してはいないか。確かに、農村で取材していると、「農協が調達する資材は高い」「農産物を有利に売ってくれない」といった愚痴を聞くことはある。だが、農協という存在がまるごとダメなのだろうか。

 そんな疑問を感じながら取材していたとき出会ったのが、秋田ふるさと農業協同組合(秋田県横手市)の小田嶋契組合長だ。小田嶋さんはコメの生産調整(減反)の大幅見直しが決まった6年前、「これはチャンスだ」と腹をくくり、大手卸との間で強固な関係を築いてきた。その結果、見直しが実行に移された昨年、他の多くの産地が前年同様、減産を続ける中で、秋田ふるさと農協は大幅な増産に転じた。地道な準備の成果だ。

 このほかにも、圧倒的な集客力を誇るレストランや直売所をつくった東西しらかわ農業協同組合(福島県棚倉町)や、水菜や焼き芋など新しい産品に挑戦するなめがた農業協同組合(茨城県行方市)など、魅力的な農協が少なくない。こうした農協の多くは、政府が「農協改革」のメニューに掲げていることの多くをとっくの昔に始めている。

 時代が大きく転回しつつあるのだと思う。これまでの農協批判のすべてが間違っていたわけではない。だが、農家数が急減する中で、担い手として残る農家を軸に地域の未来を考えなければ、農協自身もたち行かなくなることを、彼らも痛切に感じ始めている。それが変革の起点になった。