全4657文字

 「兼業が日本を支えている」と強弁する罪――。今から6年前、この連載を始めたときの最初のタイトルだ。サブタイトルは「農業崩壊に正面から立ち向かうガリバー経営」。零細で効率の低い日本の農業に、企業マインドを取り入れていくプロセスで、大規模化は間違いなく大きな役割を果たしてきた。その意義は、今後も変わることはない。ただ、筆者の農業に対するスタンスは、当時いた場所からずいぶん遠いところに来たように思う。考え方を変えるきっかけはすべて、農業者へのインタビューが与えてくれた。今回はそのうちのいくつかをふり返ってみたい。

 新聞記者という仕事の性質上、関心が向かう先はどうしても「時代の先端」になりがちになる。だが、そうやって追いかけたものの中には、ほんの少しときがたてば風化してしまうものが少なくない。取材を重ねて痛感したのは、変化の波頭を追う一方で、思考の重心を下げて「変わらないもの」を見定めることの重要性だ。

 その意味で、つねに貴重なアドバイスを与えてくれたのが、野菜くらぶ(群馬県昭和村)の沢浦彰治さんだ。沢浦さんが指摘してくれたことの中で、強く印象に残っているのが、各地で進む産地崩壊の深刻さと、生産技術を高めることの大切さだ。当たり前のように感じるかもしれないが、それが後回しになっているのではないかと感じることが少なくない。

生産を充実させる重要性を説く野菜くらぶの沢浦彰治さん

 農業の再生をめぐっては今も、インターネットで売ったり、ブランディングに力を入れたりするなど、マーケティングの必要性を説く人が少なくない。いわく、「農家はこれまで、作ったものを売るという姿勢に終始してきた。大事なのは、需要のあるものを作ることだ」。

 率直に言えば、今どきほとんどの農業者はそんなことはわかっている。とくに「担い手」と言われる人たちはそうだ。だから、独自に販路を築いて経営を発展させている農業者が少なくない。もちろん、そのかたわらで失敗例も数多くある。だがそれは、マーケティング本が世にあふれても、市場の創造が簡単でないのと同じことだ。農業だけの特殊事情ではない。

 そうした中で、沢浦さんは農業者が生産技術を高め、品質が高いものを安定して生産することの大切さをくり返し強調した。奇抜なアイデアでいっとき売れても、品質が伴わなければ長続きはしない。とくに産地の疲弊が各地で進む実情を考えれば、生産の安定こそ最大の武器になるのは明らかだ。