子どもの学費はどうする?
2人のやっている農業は、大勢の従業員を雇い、規模を拡大し、企業化していく農業とは別物だ。だがそれでも、生活が成り立っていればいいと言いたいところだが、今回はあえて突っ込んだ質問をした。2人には8歳と4歳の子どもがいる。今は何とかなっているかもしれない。だが、いずれ子どもたちが大きくなり、学費が必要になったとき、こういう農業で対応できるのだろうか。この問いに答えてくれたのは、美穂さんのほうだ。
「東京で就農した理由の1つがそれです。もし、地方で農業をやっていたら、子どもが進学するとき、子どもだけ上京させることになるかもしれません。でもここなら、とりあえず電車代だけですみます。子どもが産まれる前からそのことは考えました」
もし、子どもがどうしても地方の大学に行きたいと言ったら話は別だが、とりあえず東京近郊で進学するのなら、世帯を分ける必要はなくなる。しかも、2人の準備はもっと徹底していた。
「2人とも正社員だったので、退職金が出ました。それを使ってしまわないうちに、将来の学費に充てるため、全額学資保険に充てました」
「恐れ入りました」と言うしかない。くり返しになるが、げんに10年続けることができている2人に対して、思い浮かぶ言葉は「敬意」しかない。会社に勤めようが、フリーの道を選ぼうが、なかなか2人のように定めた目標を貫き通せるものではない。しかも、土壌診断や学資保険でわかるように、何が可能で必要かを冷静に考える努力も怠っていない。
今回、もう1人紹介するのは同じ瑞穂町で7年近く農業をやっている井上祐輔さんだ。高校を卒業して車の修理会社に就職したが、農業をやりたくて会社を辞め、農業学校で有機栽培を学び、農家での研修を経て就農した。井垣さん夫婦がそろって農業をやっているのに対し、井上さんは奥さんが幼稚園の管理栄養士の仕事をしているので家計はダブルインカムだ。

井上さんについても連載で以前、取り上げたことがある(2016年11月18日「プロ農家の『しょーがねー』に秘めた決断力」)。
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