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品質に自信のある野菜は「全部」

 「でも実際、ここで農業を10年続けることができてます。毎年、土壌診断もやってもらってますが、微量要素も含めて成分はほぼ一定です」

 ここで念のために触れておくと、2人は育ちの悪い野菜を細々と作っているわけではない。栽培品目はピーマンやシシトウ、冬瓜、小松菜など多種多様。少人数の特定のファンだけのために、ふつうなら買ってもらえないような元気のない野菜を作っているわけではない。どの野菜の品質に自信があるかと聞くと、貴洋さんは「全部」と即答した。

 でななぜ、肥料をやらないで作物を作り続けることができるのか。そのわけを、今回考えてみたかった。

 手がかりの1つは、2人が在来種を育てている点にある。現在、多くの農家はF1と呼ばれる品種を作っている。種苗メーカーが開発した品種で、生育が安定していたり、病気に強かったりする半面、かけ合わせると形質が失われる一代限りの作物。そこで、農家は毎年種を買い続けることになる。

 これに対し、昔からある在来種はF1と比べると栽培が難しかったりするが、農家が自家採種して作り続けることができる。そこで2人は、個々の畑と品種の相性を確かめることにした。畑に植えた作物のうち、生育がよかったものを選んでかけ合わせ、畑に品種をなじませていった。

 もちろん、どうしてもできない作物はある。例えば、最初に借りた畑はもともと芝生を作っていたため、収穫のときに作土層を削ってしまっていて、土が極端にやせていた。こういう畑で、表面に根を張る葉物類を作るのは難しいと気づき、根を深く伸ばす大根やサツマイモを作ることにした。

 もう1つ工夫したのは、雑草をあまり刈らないようにしたことだ。これもふつうの農法を大きく逸脱している。だが、貴洋さんは「単一の作物だけにしないことで、いろんな虫や微生物が集まり、その死骸や根っこが土中に残る。それが分解されて、土が維持されてるのかもしれません」と語る。

 連作障害は一般に、土の中の環境が均一になることが引き金になる。2人の畑は雑草との共生を実現した結果、環境の多様性を維持し、連作障害を防げている可能性がある。くり返しになるが、実際、栽培は続いている。

 これらはすべて、「できるだけシンプルに農業をやりたい」という発想から出たものだ。化学肥料や有機肥料をやる農業を否定しているわけではない。だが、やらずにすむのなら、それを続けたいというのが2人の思いだ。