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理想の世界が視覚的な理由

 このあとで「おいしい野菜を作るのは当然です」ともつけ加えたが、真っ先に「彩り豊かな畑」という言葉が返ってきたことは、とても新鮮で印象的だった。理想とする農業の世界が視覚的なのは、自分がいま野菜に囲まれて、農作業をしていることへの幸福感に包まれているからだろう。

 この思いを、自分の作った野菜を食べてくれる人と分かち合うことも目標という。「畑から野菜を持ってきて、彩り豊かな宅配ボックスをお届けして、お客さんに喜んでもらいたい。できればお客さんにも畑に来てもらって、『わーっ』って感動してほしい」。イメージは尽きることがない。


 今回はここまで。農業へのアプローチの仕方はそれぞれ違うが、2人に共通しているのは、自分がいま農業をしていることへの素直な喜びだった。ありふれた言い方をすれば、どんな職業にもやりがいはある。だがそれを混じり気のない言葉で語る2人の姿に、羨望を禁じ得なかった。しかも、2人とも「女性ならではの農業」を前面に出してはいなかった。それほど、自分が農業をやっていることが自然だと感じているからだろう。

 もう1つ強調しておくべき点がある。2人とも家族が一緒にやる農業ではなく、夫が別の仕事をしているという点だ。つまり、兼業農家なのだ。

 この連載を始めたのは、今から5年前。様々な角度から農家を取材してきたが、このところ強く感じているのが「兼業農家の復権」の大切さだ。地方で広く企業的にやる農業の価値が揺らぐことはないし、それこそが未来の農業の王道だと思う。だが、それとは違う形で、新しい兼業の形も求められている。それは「農業はもうからない」「息子には継がせられない」と言いながら、渋々農業を続けてきたような一部の既存の兼業農家とは別の生き方だ。

 明日も、東京ネオファーマーズの話を続けたい。

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

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2018年9月25日 日経BP社刊
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