農作業に復帰できた背景に家族の支え

 一方、「つらかったことは?」と聞くと答えは、農作業を我慢しなければならない時期があったことだった。就農1年目に妊娠した。それじたいはもちろんハッピーなことだ。体に気を遣って「軽い農作業にとどめよう」と決め、重いものを持つのをやめ、体に振動が伝わる耕運機を使わないようにした。だが、いつの間にか疲労がたまっていたのだろう。体調を崩して一時、入院した。

 男の子が産まれたのは、2017年5月。出産後はしばらく農作業を控えていたが、再開してみると「ちょっと頑張って、翌日はダウン」ということがしばしば起きた。思うように作業が進まないことで、焦りも募った。

 取材に応じてくれたときはそれからすでに1年たち、作業のペースをつかみつつあった。「去年は体調管理がうまくできませんでした。時間の管理の仕方はまだけして上手ではありませんが、体はもうだいぶよくなりました」。畑に出ることができるようになった喜びをかみしめる毎日だ。

 農作業に復帰できた背景には、家族の支えもあった。出産前は両親や夫に「こういうふうに作業して」と書いた紙を渡し、畑を手伝ってもらった。復帰した今は、夫が子どもを朝保育所に送ってくれるなど、育児を分担してくれるようになった。去年、何度か農作業を休んだ教訓から、焦って頑張りすぎないようにすることも習慣になった。

 いま栽培しているのは、スイスチャードやルッコラ、ビーツなどの西洋野菜や、江戸野菜などちょっと珍しい品目だ。ではこの先、どんな農業を目指すのだろう。品目の拡充や栽培技術の向上といった答えを予想してそう質問したら、返ってきた答えは「絵の具で描いたような、彩り豊かな畑を作りたい」だった。ドイツの研修先で、「カラフルな絨毯みたいな畑を見て感動したこと」が、野菜作りの原点になったという。それまでは、長年農業を志してはいても、どんな作物を選ぶかは決まっていなかった。

次ページ 理想の世界が視覚的な理由