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 就農先に東京を選んだのは、英語の先生をしている夫のことを考えたからだ。英会話教室で働くには、子どもの教育にお金をかける都会に近いほうが有利。いったん国分寺市に住み、援農ボランティアなどをやったあと、就農を決意した。松沢さんを訪ねたのは、ネオファーマーズを紹介したテレビ番組を見たのがきっかけだった。松沢さんの紹介で農家で研修したあと、瑞穂町で就農した。

 野菜の売り先は、地元の直売所やホームセンター、仲卸など。特筆すべきは、就農した瑞穂町に米軍の横田基地があったことだ。フェースブックやインスタグラムに「横田基地の近くで畑をやってます」と英語で書き込んでいるうち、基地で働く軍人の奥さんなどが畑を訪ねて来るようになった。

見出した独自路線

 彼女たちの悩みは「無農薬で作った新鮮な野菜がなかなか見つからない」ということだった。そんなニーズに、デュラントさんの作った野菜が応えた。彼女たちが欲しがったのは、紫色のジャガイモなど、日本人がちょっと手を出さないカラフルな色の野菜や、メキシコ料理に使うハラペーニョなどだった。他の新規就農者とは違う、独自路線が見えてきた。

 もちろん、就農1年目で栽培がすべてうまくいったわけではない。ケールが虫に食われて出荷できなくなったり、ニンジンの作付けに失敗したりした。だが成果は、自分が追求すべき方向が見えてきたことだ。「10年後に辞めたあと」のことを考える必要もなく、すでに農業で英語が武器になったわけだ。

 今回紹介するもう1人は、田口明香さん。デュラントさんとは対照的に、中学生のころから農業に憧れ、東京農大へ進学した。卒業後はドイツの有機農家のもとで研修したり、国際農業者交流協会で働いたりと、ずっと農業に関わってきた。そして2013年に松沢さんを訪ね、3年後に就農した。

 2人の農業にかける思いに軽重があるとは思わない。ただ、どちらかというとデュラントさんが農業とのほどよい距離感を感じさせるのに対し、田口さんはもっとストレートに農業への情熱がほとばしっていた。

 例えば、「農業をやってうれしかったことは?」と聞くと、しばし考えたあと、次々に言葉が口をついて出た。「ずっとやりたかったことが、今できていること。雑草を抜いているときも、農家になれたんだという思いがこみ上げてくる。畑の近くを歩いている人と仲良くなれた。お客さんから、おいしいって言ってもらえた。自分の知らない野菜の料理方法を教えてもらえた」。

自分がいま畑にいる喜びを語る田口明香さん(東京都瑞穂町)
就農準備で畑を開墾する田口明香さん(2015年、東京都瑞穂町)