問題は、なぜ飼料米の助成を拡充したことで、減反を計画以上に達成できたかにある。理由は「つくりやすさ」にある。そして、そのことには二重の意味がある。ひとつは、麦や大豆は水田から水を抜く必要があるのに対し、飼料米は田んぼのままで栽培できる点だ。

 もうひとつの「つくりやすさ」は、飼料米とは名ばかりで、主食のコメをふつうにつくり、家畜のエサに回しても補助金を出す制度にした点にある。10アール当たりで8万円の補助金を出す基準収量は530キロ。これは事実上、主食のコメの平均収量を指す。

 本来、飼料米助成はこれとは違った姿を目指していたはずだ。飼料用のコメは主食のコメと違って味がいい必要はなく、収量が多く、生産効率が高いことが求められる。実際、専用の多収性品種がたくさん開発されている。

 日本の稲作はずっと零細な兼業農家が担ってきた。兼業を中心とする農業構造は、生産性の向上にはつながらなかったが、農村社会の安定には大きく寄与した。だが彼らの多くは後継者がなく、高齢化に伴い、引退が始まった。

 これに対し、今後の稲作で中心になるのは、平地で大規模に効率的につくる生産者だ。コメ消費の中心であるレストランやお握り、弁当のコメは味がいいだけでなく、価格が安いことが求められるからだ。中山間地は効率化が難しいため、より食味を追求することが必要になる。そして、飼料米は主食のコメを大幅に上回る収量を実現することが必要になる。

 いずれも共通しているのは、農業は片手間の農家では難しいという点だ。経済の大都市への集中が進み、地方経済が衰え、兼業のチャンスも減っている。農業の衰退を防ぐには、農業で収益をあげることのできる経営が必要なのだ。

民主党農政の呪縛を解け

 ところが、いまの飼料米助成はこうした変革を阻み、零細で兼業が中心の農業構造を延命しかねない危うさをはらむ。「コシヒカリを豚のエサにしても補助金を出す」という政策だからだ。いままで通りのことをやっていても、政府から支援してもらえるのだ。

 あまりにゆるい支給基準は「補助金頼みの経営」を生む。それは、農水省が掲げる「農家の自主的な判断による生産」とは矛盾する。「札束でほほをたたく」ような政策のどこに、農家が経営センスを発揮する余地があるのだろう。

 結局は数の論理。日本の農家の大半を占める兼業農家が選挙で離反するのを恐れ、政治は変革へと踏み出すことができないのだろうか。そう思っていたら、自民党の農林関係議員から意外な声が聞こえてきた。

 「飼料米の基準は見直す必要がある」

 より厳しい方向へという意味だ。同様の声は、農協の全国団体の幹部からも伝わってくるようになった。ここままではまずいという思いは、確実に強まっているようにみえる。

 それにしても、民主党が導入した戸別所得補償は罪が深い。その直前、自民党政権は規模の大きい農家に助成を集中させるなど、選別政策を志向し始めていた。だがコメ農家に広く補助金を出す戸別補償を民主党が掲げ、農村票を奪い取ったことで、選別政策は吹き飛んだ。

 自民党農政は本来の目標を取りもどし、再スタートすることができるだろうか。2017年はその帰趨を占ううえで重要な年になる。

主食のコメは大規模化による効率向上がカギをにぎる(茨城県龍ケ崎市の横田農場)
新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売

農業イノベーション2017
小泉進次郎氏が登壇!
農業経営者や有識者が、日本の農業を強くする方策を語り合う。

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本シンポジウムでは、自民党の小泉進次郎農林部会長が農政改革とその狙いを語ります。個別テーマでは最新ICT活用によるスマート農業、ブランディングや海外プロモーション強化による輸出促進、流通構造改革などを取り上げます。農業のヒト、モノについて、先進のケーススタディーを紹介するとともに、農業ビジネスを成長させるためのヒントをご提供します。

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