念のために強調しておくが、全農や農協がいまのままで十分だと言いたいわけではない。「農業商社の全農」と言えば、いかにも巨大な存在にみえるだろう。だが、政治交渉で「強大な全農」に改革を迫り、事業を見直せば、日本の農業は強くなるだろうか。

 筆者はそうは思わない。「上からの改革」はきっと一過性のもので終わる。必要なのは、「全農は要らない」とまで言える農家や農協への支援だ。つまり、農協と他の売り先をてんびんにかけることができるような農家に政策支援を集中させる。その際、行政に提出した経営改善計画を達成する見込みのない農家は途中で対象から外す。実現すれば、おのずと農協も全農も動く。

 以上が筆者なりの総括だ。小泉進次郎氏が農林部会長としてやった農政改革は、「農家の問題」に正面からは切り込まなかった。成り行きでそうなったのではなく、そういう戦術だったのだろう。ただし、これでピリオドではない。

2017年こそ「勝負の年」

 ひとつは、改革を進めるための「官民の土俵」ができたことだ。「全農は抵抗勢力の象徴」というステレオタイプの受け止め方が強まり、「高めのボール」はどこに飛んで行ったのかわからないような結果となった。だがじつは、「改革後退」という批判のカゲで、ボールはそれなりの着地点を見いだしていた。

 全農が事業や組織の見直しについて数値目標を含む年次計画を立て、政府・与党がそれを定期的に点検するという合意内容がそれだ。農家にも農協にも国民にもみえない場所の駆け引きで、政治が全農を変えるべきだとは思わない。だが、農業は様々な補助金や規制で守られており、事実上、その頂点に立つ全農のあり方について、白日のもとで点検し、議論することの意義は小さくない。

 そしてもうひとつ。もともと「小泉氏が農林部会長に就いてから1年」という期限は、TPPの発効という切迫した政治・外交事情が生んだスケジュールだった。だが、トランプ氏が米次期大統領に決まったことでTPPは漂流が確実となり、改革の結論を出すべき時期を柔軟に設定できるようになった。

 TPPとは関係なく、農業と農政の大きな流れのなかで、2017年は節目の年になる。日本の農業の宿痾とも言うべき、コメの生産調整(減反)廃止を翌年に控え、様々な制度を洗い直す年になるからだ。農政改革の「ゲーム再開のベル」はいつどんな形で鳴るのだろう。そのなかで、小泉氏はどう動くだろうか。

 「農家の問題」という構造問題は、もともと1年で結論が出るようなテーマではない。肝心なのは、いつ議論を始めるかだ。この記事は総括ではなく、中間報告としたほうがいいのだろう。「勝負の年」である2017年こそ、構造問題が動き出すという期待をこめて。

新たな農の生きる道とは
コメをやめる勇気

兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。

日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売