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田畑や作物と向き合う重要性

 斎藤さんは自分の手法を「我流」と表現したが、けして非科学的なものではない。1日にどれだけ肥料をやれば根や葉が伸びるのかを計測し、施肥の効果を確かめた。もともと水田だった場所に植えるため、しっかり排水することの大切さも知った。その結果、「タマネギの性格がわかった」。

 栽培のコツをつかみ、収量が急増したのが4年目。こうやって自分の手で確かめたことを、斎藤さんが地域の仲間に伝えることで、JAとなみ野はタマネギの新興産地として成長していった。栽培技術を習得するには教科書だけではダメで、田畑や作物と実際に向き合うことの大事さを示す好例と言えるだろう。そして、まじめに栽培に取り組めば、作り方はおのずと見えてくる。

 しかも、JAとなみ野のタマネギ産地としての成長のプロセスは今が頂点ではない。栽培面積は200ヘクタールに達したことは先に紹介したが、この先、近い将来に250ヘクタール、いずれ500ヘクタールまで広げたいと思っているという。佐野組合長は「タマネギの大半は輸入物。それを国産に置きかえたいという需要はいくらでもある」と強気だ。


 いかがだろうか。筆者は何も、農業法人や参入企業と比べ、ことさら農協が優れていると主張したいわけではない。これまで協同組合は株式会社と違い、組合員の「一人一票制」なので、意思決定の迅速さに欠けると説明されることが多かった。だが、JAとなみ野を見ればわかるように、組合長が強いリーダーシップを発揮すれば、事態を突破するきっかけをつかむことができる。経営のスピード感の違いは、必ずしも組織の形態とは関係ない。

 しかも大きいのは、一農家が格別おいしい農産物や加工品を作って売り上げを増やすのと比べ、農協が動けば「産地」というスケールのケタが違う生産基地が誕生することだ。生産者が安心して栽培に取り組む環境を整えるのが、農協本来の役割。そこにいかに真摯に取り組むかで、産地の帰趨(きすう)はわかれる。

 佐野組合長は「昔は金融や共済の配当が高かったので、それで経済事業(=農産物の販売)をカバーしてきたが、そのままではいつかどこかで行き詰まると思っていた」とも話していた。金融環境の悪化による収益の低迷は、全国の農協が直面する深刻な課題だ。この流れは今後ますます加速し、農協の収益を長期的に圧迫していく。

 農業は土地や気候の条件に大きく左右されるので、どこでも産地を形成できるわけではない。だが、もし農業で収益をあげるチャンスがあるのなら、一刻も早く手を打つべきだ。必要なのは、先例にとらわれない決断。それに成功すれば、農協と農家と農業がともに発展の道を歩むことが可能になる。

砂上の飽食ニッポン、「三人に一人が餓死」の明日
三つのキーワードから読み解く「異端の農業再興論」

これは「誰かの課題」ではない。
今、日本に生きる「私たちの課題」だ。

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