トマトやパプリカの施設栽培で日本の先を行くオランダが、こうした新しい技術を先行して活用する可能性はありませんか。
高山:オランダは画像計測やセンシングデバイスがない時代に、そうした技術がなくても経済的に成功できるモデルを作りました。いまセンシングシステムが登場したからと言って、急に植物の生体情報を栽培に活かそうとは思わないでしょう。商業的に成り立っているからです。
一方、日本には2つの波が押し寄せています。1つは、農業の担い手が減り、大規模な農場を運営する技術が生まれようとしています。もう1つは、コンピューター業界などが他の業界に触手を伸ばし、センシングやデータ処理の技術を使いたいと考えています。農業もその1つです。2つの波が同時に起きていて、日本の農業は劇的に変わる可能性があります。古い担い手に取って代わろうとする人たちが、必要な技術を手に入れようとしている。ほかの国にはない状況にある。日本にもチャンスがあるんです。
未来の農場に必要となる技術を
植物の声に耳を傾ける――。プラントデータの技術を比喩的に表現するとこうなる。植物の生体内では環境の影響で様々な変化が起き、その方向がネガティブだと、いずれ病気や生育不良となって顕在化する。それを検知しようとするのが、プラントデータの技術だ。
これほどビジョンのはっきりした技術はそう多くないだろう。センサーから発想するのではなく、未来の農場の姿をイメージし、そこで必要となる技術を開発する。だから、技術の使い道を個別に考えるのではなく、様々な技術を組み合わせた農場の開発へと一気に進む。
そのためのプロジェクトも、10月にスタートした。農林水産省の委託を受け、光合成のスキルとパフォーマンスを測る2つの技術を核に、温度や日照などの環境データ、人の作業内容の相関関係をAI(人工知能)で解析し、労働時間の短縮と生産性の向上の両立を目指す。実証実験の舞台となっているのは、先進経営で知られる浅井農園(津市)などだ。
これまで農業のIT化がなかなか進まなかった背景には、システムの使い勝手が悪いだけではなく、生産者がシステムを使いこなせないという問題もあった。だが、浅井農園のように新しい技術を積極的に取り入れる経営も登場している。農業に関わる人たちにとっていま必要なのは、農業の未来像をもう一段高め、実現するための努力だろう。
『コメをやめる勇気』
兼業農家の急減、止まらない高齢化――。再生のために減反廃止、農協改革などの農政転換が図られているが、コメを前提としていては問題解決は不可能だ。新たな農業の生きる道を、日経ビジネスオンライン『ニッポン農業生き残りのヒント』著者が正面から問う。
日本経済新聞出版社刊 2015年1月16日発売
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