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市場開放で農業は強くなるのか

市場開放で農業は強くなるという意見もあります。

平沢:国境を開放したあと、生き残るのは強い人に限られる。そういう意味で、強い農業は残る。だが、全体として見れば、生産規模は縮小している。だから食料生産を量的に確保しようと思えば、別の手立てが必要になる。

強化策が不十分だったのではないですか。

平沢:農業の国際競争力は、土地という資源でかなりの部分が決まってしまう。1970年代に国際比較が盛んに行われた結果、1人当たりの農地がたくさんある地域が強いということははっきりしている。

 もし、日本の農業全体が強くなれるはずだと考えているのなら、他国の農家は努力しないと思っているのではないだろうか。例えば、ITは世界中どこでも使うことができる。ITが、日本が逆転するカギになるかというと、かなり怪しい。実際、精密農業は大陸の大型の農業中心に広がっている。

日本は雨量が多く、水資源が豊富なので競争力があるとの指摘もあります。

平沢:中国も米国もあれだけの生産量をなお維持している。節水技術がすごく進んでいるし、水が足りないなら足りないなりに強国の地位を保っている。少なくとも今のところ、水は大きな制約にはなっていない。

 それが制約になる恐れがあるのは、オーストラリアだ。深刻な干ばつが起きると、その地域は10年間不作になったりする。だが、豪州はそれに見合う形で人口が少ない。不作で生産が大幅に減っても困らない。

保護したから、弱くなったという意見もあります。

平沢:保護すれば、それに依存する体質になってしまうのは間違いない。その点には十分に気をつけなければならないが、保護する以外に量的に農業を維持する方法は、今のところあまり見つかっていないという現実がある。

 もし、それ以外の道を選ぶとすれば、付加価値を高め、差別化するという方向になる。ただそれは、高級路線のニッチ戦略になり、残れる部分が一部に限られてしまうという問題がある。量は確保できない。もちろん、依存体質にならないよう、制度設計をしっかりやる必要はある。

 例えば、スイスは多面的機能の意義を真剣に考え、その対価としてしか直接支払いの補助金を出さないという形をとっている。多面的機能には、食料の安定供給や、環境や景観の保全、動物福祉などが含まれる。

 その1つが、人口の分散的な居住による国土利用だ。スイスは国境に近い山の中でも放牧を維持している。国境を挟んで隣国との間で放牧の往来があり、段々に幅寄せされてしまうからだ。周囲を強国に囲まれているので、国境について非常に敏感で、昔からどう独立を維持するかに腐心してきた。